
「すごいツール」は、もう誰でも知っている。差がつくのは「組み合わせ方」を知っているかどうかだ。
「AIがすごい」「便利なツールがある」——そんな話は、もう聞き飽きていませんか。
私は石川県金沢市を拠点に、職業訓練のDX講座で5期・500時間以上の指導を重ね、企業への登壇も70回を超えました。その中で気づいたことがあります。
ツール単体の「すごさ」を知っている人は多い。
でも、それを組み合わせて「自分の現場で使い倒す」ところまでたどり着く人は、驚くほど少ない。
今日は、GoogleのAIノートブック「NotebookLM」と、ノーコードアプリ「AppSheet」。この2つを組み合わせると何が起きるのか。ある職業訓練校の現場を舞台に、ストーリーでお伝えします。
※以下のストーリーは、複数の現場経験をもとに構成した仮定の話です。
Contents
■ 第1章:「また同じこと聞かれた」——事務室のため息
朝9時。介護事業所の事務室で、田中さん(仮名)がパソコンに向かっている。
内線が鳴る。
「すみません、田中さん。佐藤さんのご家族から電話があったんですけど、先週のケア記録って今すぐ確認できますか?」
現場の介護スタッフ、山本さん(仮名)からだ。
「ちょっと待ってください……えーと……」
田中さんはExcelファイルを開く。先月分のシート、先々月分のシート。利用者名で検索して、日付を辿って——。
「木曜日に入浴介助、金曜日はレクに参加って書いてありますね」
「ありがとうございます。あと、夜勤の引き継ぎで聞かれたんですけど、佐藤さんの服薬の注意事項ってどこに書いてありましたっけ?」
「それ、前も聞かれましたよね。ファイルサーバーの……えーと、どのフォルダだったかな……」
田中さんの心の中の声。
(またこれか。毎回同じことを聞かれて、毎回同じものを探している。私の仕事って、これなのか?)
■ 第2章:「スマホで打てばいいんですか?」——AppSheetの導入
ある日、外部のDXアドバイザーが事業所に来た。現場を見て、こう言った。
「山本さん、利用者さんへの対応記録、今どうやって記録してます?」
「訪問から戻ってきてからExcelに打ってます。正直、細かいことは忘れることもありますけど」
「じゃあ、これ使ってみてください」
アドバイザーが見せたのは、スマホの画面。AppSheetで作った簡単なアプリだった。
「利用者さんの名前を選んで、対応内容を入力して、送信。これだけです」
山本さんが恐る恐るスマホをタップする。
「……え、これだけですか?」
「これだけです。訪問先でも、送迎の合間でも、その場で入力できます。で、田中さん、こっちを見てください」
事務室のパソコンに目をやると、Googleスプレッドシートに、山本さんがたった今入力したデータがリアルタイムで表示されている。
田中さんの目が丸くなった。
「え、もう反映されてるんですか? 今まで私がスタッフの手書きメモを転記してたやつ……」
「そうです。もう転記は要りません」
■ 第3章:「これ、全部まとめて聞けるんですか?」——NotebookLMの衝撃
1か月後。AppSheetでの現場入力は定着していた。スプレッドシートには、利用者ごとのケア記録がどんどん蓄積されている。
しかし、新しい悩みが出てきた。
「データは溜まったんですけど、量が多すぎて見返せないんです」と田中さん。
「ご家族への報告の前に佐藤さんの先月の様子をまとめたいのに、100行ぐらいスクロールしないと全体像が掴めない」
そこで登場したのが、NotebookLM だ。
NotebookLMはGoogleドライブと連携できる。
つまり、AppSheetが吐き出すスプレッドシートを、そのままNotebookLMのソース(情報源)として読み込めるのだ。
アドバイザーがNotebookLMを開き、スプレッドシートを接続した。
「田中さん、試しに聞いてみてください。『佐藤さんの先月のケア記録をまとめて』って」
田中さんが入力する。
数秒後、NotebookLMが答えた。日付順に整理された対応履歴の要約。
誰が、いつ、どんなケアをしたか。体調の変化や気になる様子まで。一目でわかる。
「……これ、私がご家族への月次報告のために1時間かけてまとめてたやつですよね」
「はい。でも、まだ続きがあります」
アドバイザーが、さらにソースを追加した。
利用者の基本情報・ケアプラン一覧、スタッフのシフト表、そして事業所の運営規程と介護マニュアルのPDF。
「山本さん、この前新人スタッフに聞かれてた夜勤時の緊急対応フロー、NotebookLMに聞いてみてください」
「えっ、マニュアルも入ってるんですか?」
「入れたので」
山本さんが聞く。
「夜勤中に利用者が転倒した場合の対応手順を教えてください」
NotebookLMが、介護マニュアルの該当箇所を引用しながら、わかりやすく回答した。
田中さんがつぶやいた。
「……もう私に電話しなくていいってことですか」
山本さんが笑った。
「田中さん、それはそれで寂しいですけどね」
■ 第4章:「組み合わせ」が生んだ本当の変化
整理します。
AppSheet(スマホアプリ) がやっていること:
- 訪問先や現場でケア記録を、その場で入力
- データはGoogleスプレッドシートにリアルタイム蓄積
- 事務方は転記不要。いつでもデータを確認できる
NotebookLM(AIノートブック) がやっていること:
- スプレッドシートのケア記録を丸ごと読み込み、質問に答える
- 利用者の基本情報、スタッフ情報、シフトも横断的に検索
- 介護マニュアルや運営規程など「何度も聞かれる情報」にも即座に回答
この2つが組み合わさると、こうなります。
- 山本さんが訪問先でスマホからケア記録を入力する
- スプレッドシートにリアルタイムで反映される
- 田中さんはNotebookLMに聞くだけで、ご家族への報告資料がまとまる
- 山本さんも新人スタッフも、マニュアルや利用者情報をNotebookLMに聞ける
「記録する人」と「情報を使う人」の間にあった壁が、消えたのです。
【結論】
一つひとつのツールが優れているのは、もう当たり前の時代です。
NotebookLMもAppSheetも、単体で見れば「便利だね」で終わる話かもしれません。
でも、この2つを組み合わせた瞬間、「現場で生まれたケア記録が、そのまま事業所全体の知恵になる」 という仕組みが生まれます。
これは介護事業所の話として書きましたが、本質は同じです。
石川県の中小企業でも、まったく同じことができます。
営業担当がスマホで顧客対応を記録する。
事務方がNotebookLMで「先月のA社との商談履歴をまとめて」と聞く。
新人が「うちの納品ルールってどうなってますか?」とNotebookLMに聞く。
人を増やさなくても、情報が回る組織は作れます。
介護の現場は慢性的な人手不足です。だからこそ、「人を増やす」のではなく「今いる人の手間を減らす」。その答えが、高額なシステム導入ではなく、すでにある無料のツールの「組み合わせ」 にあるとしたら——試さない理由がありません。
ツールの使い方を教えるだけの研修には、もう意味がありません。
私がやっているのは、あなたの現場に合った「組み合わせ」を一緒に見つけ、自走できるようになるまで伴走することです。
「うちの事業所だったら、どう組み合わせればいいんだろう?」
そう思ったら、一度お声がけください。泥臭く、一緒に考えましょう。
