
「伝わらない」は、能力の問題じゃない。変換力の問題だ。
「この人の話、スッと入ってくるな」の正体
皆さんの周りにもいませんか。
同じことを説明しているはずなのに、ある人が話すとスッと頭に入ってきて、別の人が話すとさっぱりわからない。
その差は何か。
声の大きさでも、話すスピードでもありません。
「たとえ話」を使えるかどうか、ただそれだけです。
「クラウドって何ですか?」と聞かれたとき、「インターネット上の仮想サーバーに分散してデータを保存する仕組みで……」と説明する人と、
「貸倉庫みたいなものです。自分の家に収納がなくても、必要なときにいつでも取り出せる場所がある。それがクラウドです」と説明する人。
どちらの話を聞きたいか、答えは明白です。
Contents
たとえ話が上手い人の頭の中で起きていること
これは単なる「話し上手」ではありません。
認知科学の世界では、抽象化能力と呼ばれる高次の知的スキルです。
たとえ話を作るには、頭の中で3つのことを同時にやっています。
- 目の前の難しい概念の本質を掴む(これは何なのか?)
- 相手の知識レベルを推し量る(この人は何なら知っているか?)
- 両方に共通する身近なイメージを瞬時に見つけ出す(あ、あれに似ている)
つまり、たとえ話が上手い人は「頭がいい」というより、「頭の使い方が柔らかい」んです。
経営者にとって、なぜ「たとえ話力」が武器になるのか
私はこれまで企業登壇70回以上、職業訓練のDX講座も5期目になりました。受講者も経営者も、ITリテラシーは様々です。
その現場で痛感するのは、「説明がうまい経営者の会社は、DXが進む」という事実です。
逆もまた然り。社長がIT担当者に丸投げして、「とにかくDXやっといて」で済ませている会社は、現場がまったく動かない。
当然です。社長自身が「DXって何のためにやるの?」を自分の言葉で、たとえ話を交えて語れないからです。
石川県の中小企業で、こんな社長がいました。
「DXっていうのは、うちの工場でいえば『段取り替え』みたいなもんや。今まで手でやっとった段取りを、機械に覚えさせるだけの話。職人の腕がいらんくなるわけじゃない。職人がもっとええ仕事に集中できるようになるんや」
この一言で、現場のベテラン職人たちの表情が変わりました。
「DX」という横文字に身構えていた人たちが、「ああ、そういうことか」と腑に落ちた瞬間です。
たとえ話は、経営者にとって最強の説得力です。
実は、生成AIは「たとえ話の達人」である
ここからが今日の本題です。
皆さんが日頃使っている生成AI、ChatGPTやClaude、Gemini。実はこのAIたち、とんでもなくたとえ話が上手いことをご存知ですか?
試しにこう聞いてみてください。
SaaSの死について、ITが苦手な私にもわかるようにたとえ話を使って説明して
すると、AIは専門用語を一切使わず、日常の身近なイメージに置き換えて、驚くほどわかりやすく説明してくれます。
これ、すごいことなんです。
今まで「専門家に聞かないとわからない」と思っていたことが、AIに「たとえ話で教えて」と一言添えるだけで、誰でも理解できるようになる。
私が研修の現場で教えているのは、まさにこの使い方です。
「AIへの発注書」(プロンプト)に「たとえ話を使って」「小学生でもわかるように」と書き加えるだけ。
たったこれだけで、AIの説明力が劇的に変わります。
「伝える力」を鍛える最強の壁打ち相手
もうひとつ、経営者の皆さんにお伝えしたいことがあります。
生成AIは、皆さん自身の「たとえ話力」を鍛えるトレーニング相手にもなるということです。
例えば、新しい制度や取り組みを社員に説明しなければならない場面。
AIにこう聞いてみてください。
この内容を、うちの社員(IT用語がわからない50代の製造業の現場スタッフ)に説明したい。たとえ話を3つ考えて
AIが出してくれたたとえ話を読んで、「お、これは使える」「いや、うちの現場ならこっちのほうがピンとくるな」と取捨選択する。
その過程で、皆さん自身の「変換力」もどんどん磨かれていきます。
私自身、研修のスライドを作るとき、AIに壁打ちしながらたとえ話を磨いています。
泥臭い作業ですが、これが一番効く。
もし周りに「たとえ話の上手い人」がいたら
最後にひとつ、お願いがあります。
もし皆さんの周りに、たとえ話を上手に使って説明してくれる人がいたら、その人を大切にしてください。できれば友達になってください。
なぜなら、その人は「自分の知識をひけらかすこと」よりも、「相手に伝わること」を優先している人だからです。
そういう人が組織にいると、チームの理解力が底上げされます。
新しいツールの導入も、制度の変更も、スムーズに進みます。
そして、もしそういう人が周りにいなくても大丈夫です。
今は生成AIという、最強のたとえ話パートナーがいます。
「伝わらない」は、能力の問題ではありません。
変換する道具を持っているかどうか、ただそれだけの問題です。
その道具は、もう皆さんの手の中にあります。
