
あの方が「価値がある」と言った雑談は、雑談ではありませんでした。よその現場の詰まりが、月に一度だけ持ち込まれる時間のことでした。
※本記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。
道具の仕様も名称も変わりますので、実際の画面はご自身の環境でご確認ください。
1年前、ある会社でこう言われました
石川県内のある会社で、生成AIの話をひととおり終えたあとのことです。
雑談の流れで、担当の方がこう言いました。
「石原さん、うちの会社に月に1回くらい来てもらってもいいですよ。その時は、今みたいな感じで雑談するだけでも価値はあると思っています」
ありがたい話です。
ふつうなら、その場で「ぜひやらせてください」と言うところだと思います。
言えませんでした。
断ったのではありません。
その言葉を、商品にする方法が分からなかったのです。
月1回、うかがって、雑談する。それにいくらの値段をつけるのか。
何を提供したことになるのか。契約書に何と書くのか。ひとつも答えが出ませんでした。
そのまま1年が経ちました。
そして先日、「DX伴走顧問」というページを1枚追加しました。ようやくあの言葉に答えを返せる形になったので、その経緯を書いておきます。
顧問という言葉を名乗るのが、ずっと怖かった
顧問と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、こういう像ではないでしょうか。
立派な経歴の人が、月に1回、会社にやって来る。
役員会に同席して、業界の動向を語り、方針について意見を述べて帰っていく。
その顧問が必要な会社は、確実にあります。
外の視点で経営を見てもらう価値は本物ですし、それを提供できる方も大勢いらっしゃいます。
ただ、私が呼ばれている現場は、そこではありませんでした。
私が呼ばれるのは、「あれ、どうやるんだったか」で手が止まっている場所です。
先月の研修で確かにできたはずの操作が、2週間後には思い出せない。
聞ける人が社内にいない。かといって、そのために外部に電話するほどのことでもない。
そうやって放置されているうちに、全体が止まる。
方針を語る人ではなく、その場で一緒に画面を開いて片付ける人が要る場所です。
私はその像に自分を当てはめられないまま、1年考えていました。
私は、教える側になる前に、詰まる側にいました
ここから先は、自分の話になります。
私は、いくつもの中小企業を渡ってきました。業種も規模もバラバラです。
どこにも共通していたことがあります。
人が足りていませんでした。
一人が何役も兼務していて、誰も専任ではない。
新しい道具を入れようという話が出ても、それを調べる時間を持っている人がいない。
分からないことがあっても、社内に聞ける人がいない。
詳しそうな人に聞いてみたら、その人も分かっていなかった。
だから止まる。能力の問題ではなく、聞ける先がないという、それだけの理由で止まる。
私は、その側にいました。
「聞ける相手が社内にいない」という一文を、私は想像で書いていません。
自分がそうだった記憶で書いています。
これは自慢する話ではありません。
むしろ逆です。ただ、顧問という仕事を考えるうえで、ここが出発点になっていることは、はっきり書いておきたいと思いました。
生成AIの顧問に向いているのは、どういう人か
では、どういう人が向いているのか。
私の答えはこうです。
答えを持っている人ではなく、人がどこで止まるかを知っている人です。
生成AIの使い方そのものは、今や検索すれば出てきます。動画もあります。生成AIに聞けば教えてくれます。
情報は、もう不足していません。
不足しているのは、「うちの人は、どこで止まるか」を知っている人のほうです。
私は職業訓練でDX講座を担当していて、いまが6期目です。累計で600時間を超えました。
そこで何をやっているかというと、ブラウザのタブの増やし方から教えています。
右上の小さな十字マークを押すと新しいタブが開く。
今の画面は消えていない。上の帯で行き来できる。そこからです。
この600時間で分かったのは、止まる場所には再現性があるということです。
同じところで、多くの人が同じように止まります。
そして止まる場所は、たいてい「教える側が説明を省いたところ」です。
分かっている人には、そこが段差に見えていません。
企業研修とセミナーも、2年間で80回を超えました。指導した方は800名を超えています。
この数字自体に意味があるのではありません。
800人が止まった場所を、実物で見てきたことに意味があります。
できる人に合わせない。
いちばん不安な方に合わせて進める。
それができるのは、資料を読んだからではなく、毎週その場に立っているからです。
私の講義は、受講生から吸い上げたものでできています
ここが、この記事でいちばん書きたかったことです。
私がセミナーで話している事例は、私が考えたものではありません。
介護施設の方が「記録が終わらない」と言いました。
建設業の方が「日報を書くのが毎晩9時になる」と言いました。
士業の方が「議事録を起こすのが翌週になる」と言いました。
ある福祉法人の方は「職務規定のどこに書いてあるか、誰も探せない」と言いました。
これらは全部、受講生と参加者から出てきた言葉です。
私はそれを持ち帰って、次の講義に組み直しています。
介護の現場で出た詰まりが、翌月の建設業の研修で「これ、うちも同じです」と言われる。
士業の方が困っていた議事録の話が、そのまま自治体の会議録の話として通じる。
業種が違っても、詰まる形は驚くほど似ています。
つまり私は、講師という立場を使って、業界を横断して詰まりを集めて回っていることになります。
集めたものを整理して、次の現場に運ぶ。それを2年間、繰り返してきました。
このやり方には、ひとつだけ他の人にはない性質があります。
1社の中にいる人には、この横断ができません。
社内の優秀な担当者の方が、自社の課題を誰よりも深く理解しているのは間違いありません。ただ、その方は隣の業界で何が起きているかを見に行けません。本業があるからです。
外から来る人間だけが、それを運べます。
だから、あれは雑談ではありませんでした
ここで、1年前の言葉に戻ります。
「雑談するだけでも価値はあると思っています」
当時の私は、この「雑談」を額面通りに受け取っていました。世間話に月額をいただくわけにはいかない、と思っていました。
違いました。
あの方が価値があると言ったのは、よその現場で起きたことが、月に一度だけ社内に持ち込まれる時間のことでした。
社内の会議では、絶対にその情報は出てきません。全員が同じ会社にいるからです。同じ道具を使い、同じ手順で、同じところで止まっています。議題を増やしても、外の情報は入ってきません。
外から人が来て、「先月、別の業種でこういうことがありました」と言う。それを聞いた誰かが「うちも実は同じで」と言い出す。そこで初めて、社内で言葉になっていなかった詰まりが表に出ます。
これが、雑談の正体でした。
1年かかりました。ようやく形にできたので、ページにしました。
なお、研修が3回で終わる構造については、以前ブログに書きました。あわせて読んでいただくと、なぜ顧問という形にしたかが分かりやすいと思います。
▶ 3回で終わる支援と、2か月で変わる技術|介護施設の生成AI研修が、続かない構造と顧問契約の話
向いていないことも、先に書いておきます
期待していただいたあとで違ったとなるのがいちばん困りますので、お受けしていないことを先に書きます。
個人情報を直接扱う業務は、お受けしていません。
利用者さんの記録を私が代わりに入力する、といったことはしません。**それが安全に回る仕組みを一緒に作るところまでが範囲です。**線を引いておかないと、施設側の責任の所在があいまいになります。
正解を渡しません。
「こうしてください」と手順書を置いて帰るほうが、その日は喜ばれます。ただ、その手順書は道具の仕様が変わった時点で使えなくなります。その場で一緒に手を動かして、社内の誰かが自分で直せる形にして帰ります。
宿題を出しません。
持ち帰らせた時点で止まるのを、私は何度も見てきました。忙しいからではなく、持ち帰った瞬間に優先順位がいちばん下になるからです。その場で1つ片付けて終わる、という形にしています。
短期で劇的に変わる約束もしません。
使えるようになるかどうかは、研修をやったその日ではなく、その後の3か月で決まります。
そのために最低6か月をいただいています。
まとめ
顧問に向いているかどうかは、肩書きでも知識量でもないと思っています。
人がどこで止まるかを知っていること。そして、それを次の現場に運べること。
私は経営を語れる人間ではありません。ただ、詰まっていた側から来て、いまは毎週、人が止まる場所を実物で見ています。集めたものを、月に一度、別の会社に置いてくる。それならできます。
最後に、ひとつだけ質問をさせてください。
御社で「あれ、どうやるんだったか」と手が止まった方は、いま誰に聞いていますか。
その方の顔が思い浮かばないとしたら、それは能力の問題ではありません。聞ける相手が、まだ社内に置かれていないだけです。
DX伴走顧問(月1回の訪問+相談無制限): 詳細はこちら → https://solobizjourney.com/dx-komon/

