「1年の空白」で書類を落とす前に|その選考基準は、鎖国をしている日本を前提にしていませんか

鎖国をしている国の中でだけ正しい基準を、鎖国していない国で使い続けている。

経歴の空白期間は、書類選考で不利になりますか

先日、LinkedInである投稿を読みました。

書いていたのは、企業で面接を担当している方です。

本当はこんなことをやってはいけない。
こういう状況は世の中にあってはならない。

そう思いながら、現場ではこういうことがある——そんな書き出しでした。

応募者の履歴書に、1年の空白期間がある。

調べてみると、それはワーキングホリデーだった。
そう分かった時点で、書類の段階で落とす会社がある。

そういう趣旨の話です。

正直に言うと、驚きました。

私自身が、その「空白」を持っている側だからです。

この記事で考えたいのは、そこです。

落とされているのは応募者の経歴なのか、それとも、落とすために使っている条件のほうが古いのか。

落としているのは経歴ではなく、説明のつかなさ

先に書いておきたいことがあります。
書類を見ている担当者が悪い、という話にはしません。

求人を1本出せば、応募が何十通と届きます。

全部を最初から丁寧に読み込むのは、実際のところ無理です。
だから機械的な条件が要る。ここまでは、どの会社でも正しい判断です。

問題は、そのふるいの目が何でできているかです。

よく指摘される構造として、落とされているのは空白そのものではなく、「その空白を上司に説明する手間」のほうだ、という見方があります。

この1年は何をしていた人なのかと聞かれたときに、一言で答えられない。
答えられないものを通すと、自分が説明責任を負う。だから最初から外しておく。

現場としては合理的です。

ただ、その合理性が守っているのは、会社の採用力ではなく、担当者の説明の手間です。

ふるいが必要なのは正しい。

ただ、そのふるいの目が、いつの時点の日本に合わせて作られたものなのかは、たいてい誰も覚えていません。

「もし今が鎖国をしている日本なら」と置いてみる

最近、私が判断基準を見直すときに使っている枕詞があります。

もし今が鎖国をしている日本なら。

この一言を頭につけて、条件を読み直すだけです。

つけても成立する条件なら、そのまま使えばいい。
つけた瞬間におかしくなる条件は、中身ではなく前提のほうが古くなっています。

私は30歳を前に、カナダのバンクーバーで1年を過ごしました。
その後、アメリカでも5年生活しています。

現地で会ったのは、自分で住む場所を探し、自分で仕事を見つけて、その日から生活を組み立てている人たちばかりでした。

誰も用意してくれません。全部、自分で決めて動くしかない。そういう1年です。

その1年が「空白」と数えられる。
正直なところ、少しおかしな話だと思っています。

外に出た人が誰もいない国であれば、この物差しは成り立ちます。

国の外に何があるか分からないのだから、出ていた期間は測れない。
測れないものは、ないものとして扱う。筋は通ります。

ですが、今の日本は鎖国をしていません。

取引先も、原材料も、働き手も、すでに国境をまたいでいます。
石川県の会社でも、海外からの旅行者や技能実習の方と毎日顔を合わせている現場はいくらでもあります。

鎖国をしている国の中でだけ正しい基準を、鎖国していない国で使い続けている。
今回の話は、そういう形をしています。

その条件を、AIに渡す前に

ここからが、この記事でいちばん書きたかったことです。

いま、応募書類の整理や要約を生成AIにやらせ始めた会社が出てきています。
何十通も届く書類を全部読むのは無理だ、という現場の事情を考えれば、当然の流れだと思います。

速くすること自体は、問題ではありません。
問題になるのは、速くする前に条件を点検したかどうかです。

考えてみてください。

「1年以上の空白がある人は外す」という条件は、いつ、誰が、どんな採用市場を前提に決めたものでしょうか。

これは採用に限った話ではありません。

研修でお邪魔した会社で、社内のルールについて「これはいつ、誰が決めたものですか」と伺うと、答えが返ってこないことがよくあります。

前任者から引き継いだ。
昔からそうしている。
決めた人はもういない。

だいたいこのあたりです。

決めた人も、決めた理由も分からない条件を、そのまま道具に渡すとどうなるか。
答えは単純で、その足切りが、今までより速く、正確に、大量に効くようになります。

ここで、こう思われた方もいるはずです。
うちはAIで選考なんてしていない、と。

ですが、条件そのものは、担当者の頭の中で毎回動いています。

紙に書き出されていないだけです。

書き出されていないぶん、点検する機会だけが存在しない。
むしろこちらのほうが、直しにくい。

道具を入れるかどうかは、あとの話です。
先にやることは、いま実際に落としている条件を、目に見えるところへ出すことです。

「海外経験者はややこしい」と言われるのは、なぜか

もうひとつ、耳にしたことのある話を書いておきます。

中途採用で海外経験のある人が入ってくると、ややこしい。そういう噂です。

私はこれを、事実として言うつもりはありません。

ただ、そう受け取られる場面があること自体は、想像がつきます。

中身を言い換えると、はっきり物を言うこと、自分の考えを先に出すことが、扱いにくさとして数えられている、ということではないでしょうか。

ここで考えたいのは、人物評ではありません。数のほうです。

人が採れない、応募が来ない、若い人が県外へ出ていく。

そう言い続けている地域で、自分で道を切り拓いてきた人を、扱いにくいという理由で入口から外す。
その余裕が、本当にあるのでしょうか。

職務経歴書には、社名を書く欄と期間を書く欄はあります。

けれど、その期間に何を自分で背負ったのかを書く欄はありません。
書く欄がないものは、読む側にも見えません。

月曜にできる3つの点検

大がかりな制度改定は要りません。今週できることを3つだけ書きます。

  1. 自社の書類選考で、実際に落としている条件を紙に書き出す。募集要項に書いてあるものだけでなく、担当者の頭の中にあるものを含めて、全部出します。
  2. それぞれの条件に「いつ・誰が決めたのか」を書き添える。答えられない条件に、印をつけてください。この時点で、たいてい半分近くに印がつきます。
  3. 印のついた条件に、「もし今が鎖国をしている日本なら」をつけて読み直す。成立するものは残す。おかしくなるものは、今期のうちに外す。

私は職業訓練のDX講座で6期目、累計600時間以上、求職者の側をまとめて見てきました。

そこで毎期思うのは、能力の差よりも、経歴の説明のしかたひとつで扱いが変わってしまう、ということです。

空白かどうかを決めているのは、応募者の1年ではありません。
こちら側が持っている物差しのほうです。

その条件は、いつの日本を前提に書かれたものでしょうか。

採用や人材育成の現場で使っている条件を、生成AIと一緒に棚卸しするところから始めています。
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