
結論から書きます。使えます。
外部研修の受講料も、講師への謝金も、対象になり得ます。
中小企業であれば経費の45%から、条件が合えば最大75%。
さらに、従業員が研修を受けている間の賃金の一部まで助成されます。
DXや生成AIの活用といった、いわゆるリスキリングの研修は、特に手厚く支援される枠があります。
ただし、ひとつだけ前提があります。
研修を始める1か月前までに、管轄の労働局へ計画を出しておくこと。
終わってから「これ、使えますか」は通りません。
正直に書きます。私はこれまで、助成金や補助金を入口にした導入を、あまりおすすめしてきませんでした。
お金が出るから始めた取り組みは、お金が出なくなった時点で止まるからです。
その考えは今も変わっていません。
それでも今回これを書いているのは、生成AIの活用が待ったなしになったからです。
1年前なら「じっくり社内で議論してから」でよかった。
今は、議論している間に、同じ商圏の同じ規模の会社が先に人を育て終わります。
使える制度がある組織なら、使ったほうがいい。判断が変わったのはそこです。
ただし、順番だけは変えないでください。この記事の本題はそこにあります。
人材開発支援助成金とは何ですか
従業員に、業務に関連する専門知識や技能を身につけさせる研修を実施した企業に対して、その研修の経費と、受講している間の賃金の一部を、国(厚生労働省)が助成する制度です。
財源は雇用保険で、窓口は各都道府県の労働局になります。
はじめに、言葉の整理をひとつ。
通称で「人材開発補助金」と呼ばれることがありますが、正式には補助金ではなく助成金です。
細かいようですが、検索するときも、社労士さんに相談するときも、正式名称の「人材開発支援助成金」で言ったほうが、正確な情報にたどり着きます。
助成の中身は、大きく2つです。
ひとつは経費助成。外部セミナーの受講料、eラーニングの利用料、そして外部講師への謝金などが対象になります。中小企業の場合、コースや要件によって45%から最大75%程度が助成されます。
もうひとつは賃金助成です。研修を業務時間内に実施した場合、受講している間も会社は当然、給与を払っています。
その負担を軽くするために、1時間あたり数百円から1,000円程度が企業へ支給されます。
「人を出すと現場が回らない」という、中小企業がいちばん引っかかる部分に効く仕組みです。
なお、ここに書いた率も額も、2026年度(令和8年度)時点のものです。
助成率や上限額は年度ごとに見直されます。
実際に動くときは、必ず石川労働局または厚生労働省の最新の要領で確認してください。
生成AIやDXの研修は、どのコースの対象になりますか
コースはいくつもありますが、実務で名前が挙がるのは主に3つです。
事業展開等リスキリング支援コース。
DX化や新規事業展開に向けた研修が対象で、経費助成率がもっとも手厚い枠です。
人への投資促進コース。
デジタル人材の育成や、定額制(サブスク型)のeラーニングなど、「人への投資」を後押しする枠です。
人材育成支援コース。
職務に直接関連する一般的な知識・技能を身につけさせるための、汎用的な枠です。
座学や外部研修、いわゆるOff-JT(通常の業務から離れて行う研修のこと)が中心になります。
ここでひとつ、踏み込んで書きます。
同じ「生成AIの研修」であっても、どのコースに当たるかは、研修の中身だけでは決まりません。
会社側が、その研修を事業計画のどこに位置づけて説明するかで変わってきます。
新しい事業やDX推進の一環として書けば前者に寄りますし、既存業務の技能向上として書けば後者に寄る。
だから「うちのAI研修はどのコースですか」という聞き方をすると、たいてい答えが出ません。
順番が逆なのです。
研修の名前からコースを探すのではなく、自社が何を変えようとしているかを書いてから、それに合う枠を選ぶ。これが正しい順序になります。
なぜ「1か月前」が本体なのか
事後申請は認められません。
研修が終わってから「あれ、使えたのでは」と気づいても、間に合わない。
ここでほとんどの会社が落ちます。
そして事前に出す訓練実施計画届に書くのは、ざっくり言えば次の4つです。
誰に。対象となる従業員です。雇用保険の被保険者であれば、正規・非正規を問いません。
何を。訓練の内容です。
何時間。時間数と、実施する期間です。
何のために。その訓練の目的と、社内での位置づけです。
この4つを並べて、気づいたことがあります。
これは、助成金の書類である前に、育成計画そのものです。
研修が単発で終わってしまう会社には、共通点があります。
この4つを書かないまま、日程だけ先に決めていることです。
「講師を呼んで2時間」から入ると、対象者も、目的も、その後どうするかも、すべて後付けになる。
私も外から見ていて、そこで止まってしまう場面を何度も見てきました。
担当の方を責める話ではありません。日々の業務を回しながらだと、どうしてもそうなります。
だから、助成金を取りにいくと、順番が強制的に正しくなります。
金額が下がることより、この副作用のほうが、たぶん大きい。
介護や福祉の事業所であれば、もう少し話が早いかもしれません。
キャリアパス要件のために、年間の研修計画をすでに毎年作っているはずです。
あの紙に書いてある「誰に・何を・何時間・何のために」は、いま挙げた4つとほとんど同じ項目です。
ゼロから書き起こす必要はなく、そこに生成AIの研修を1行足すところから始められます。
それでも、助成金を理由に研修を決めない
ここは、はっきり書いておきます。
75%が戻ってくるからやろう、という理由で決めた研修は、残りの25%すら回収できません。
戻ってくるのは費用であって、現場の変化ではないからです。
研修が終わって、誰も使わなくなれば、自己負担分がまるごと消えます。
それに、制度は年度で変わります。要件も、率も、枠そのものも見直されます。
制度が終わったら止まる取り組みは、最初から続く形になっていません。
正しい順番は、こうだと思っています。
まず、誰の、どの困りごとを減らすのかを決める。
次に、それを減らすための研修を設計する。
そして最後に、使える制度があれば使う。
この3番目に置いておく限り、助成金は良い道具です。
立ち上がりの2回か3回を軽くしてくれる。
そこが軽くなるかどうかで、始められるかどうかが決まる会社は、確かにあります。
そして最終形は、外から講師を呼び続ける形ではありません。
社内に、実際に触れる人を作って、こちらが手を離すことです。
研修の満足度が高くても現場が変わらないのは、たいてい出口の設計がないからでした
(このあたりは以前に書いています → https://www.SoloBizJourney.com/2026/08/02/continuous-learning/ )。
助成金は入口を軽くする道具です。出口までは作ってくれません。
来月動くなら、先に確認する3つ
実務として、最初に見るのはこの3点です。
- 対象になる従業員がいるか。雇用保険の被保険者であることが基本条件です。正規・非正規は問いません。ただし役員や、事業主本人は対象から外れる場合があります。
- 研修の開始日から逆算して、1か月以上あるか。無ければ、今回は自費で走らせて、次回に間に合わせるという判断もあります。無理に日程を後ろへずらすより、そのほうが早いことも多いです。
- 申請の実務は、社会保険労務士に相談する。ここは専門家の領分です。私は申請の代行はしません。私が引き受けるのは、研修の中身の設計と、さきほどの4項目を言葉にするところまでです。実際、その2つは分けたほうがうまくいきます。
最後に、ひとつだけ正直なことを書いておきます。
私自身、これまでの研修でこの制度を使った例は、まだありません。
講師への謝金も対象になり得ると知ったのは最近です。
だからこれからご相談をいただいたときには、いちばん最初にこの話をしようと思っています。
使える組織なら、使ってほしい。
来年度の研修予算を、いまから組むとして。
1か月前に出す紙に、誰の、何を書けますか。
そこが書けるなら、制度は後からついてきます。
研修の中身を設計するところからご相談をお受けしています。
https://www.SoloBizJourney.com/dx-kenshu/

