人月商売とは何か|AIで自分でアプリが作れる時代に、なぜ見積書は今も「人数 × 月数」なのか

AIを使って自分でアプリを作る。この流れは、もう止まらないと思っています。

私も少し始めているところです。

管理が追いつかなくなる、セキュリティが心配だ——その危惧は本物です。

ただ、止まらないものを止めようとしても、見えないところに隠れるだけです。

止まらないのだとしたら、先に揺れるのは日本のIT特有の値段のつけ方ではないでしょうか。

人月商売と呼ばれるものです。

まず、そこから整理します。

人月商売とは何ですか

人月商売とは、見積もりが「必要な人数 × かかる月数 × 単価」で決まる売り方のことです。

「人月」は、1人が1か月働く量を1として数える単位です。

3人が2か月なら6人月。単価が100万円なら600万円になります。

大事なのは、できあがったものではなく、投入した時間に値段がついているという点です。

引っ越しで考えると分かりやすいと思います。

引っ越しの請求は、運んだ荷物の量ではなく「作業員3人 × 2日」で決まります。

荷物が思ったより少なくても、3人が2日いれば金額は同じです。
システム開発の見積もりに人月という単位が出てくるとき、起きているのはこれと同じことです。

だから発注する側は、見積書を見ても中身を判断できません。
書いてあるのは人数と月数であって、何ができるかではないからです。

早く終わると、売る側が損をする

ここに、一つの向きがあります。

人数を減らせば売上が減ります。期間を縮めても、売上が減ります。

改善したほうが損をする向きに、値段のつけ方が効いているわけです。

念のため書いておきますが、これは作る側を責める話ではありません。

この仕組みは、作る量も期間も事前には読めなかった時代には、きわめて合理的でした。

何ができあがるか分からないものに、先に値段はつけられない。
だから、確実に測れる「時間」で数えた。
作る側も、この値段のつけ方の中で最善を尽くしてきたはずです。

問題は仕組みそのものではなく、同じ数え方を、どの仕事にも使い続けてきたことのほうにあると考えています。

なぜ銀行のシステムは何重にも作られているのですか

「では人月はもう要らないのか」と言われると、そうではありません。

人月で買うのが正しい仕事があります。

銀行の勘定系——口座と入出金を扱う中核の仕組みのことです——は、止まると社会の側が止まります。

ですから、こうした止められない仕組みでは、同じ働きをする装置をもう一組そろえて、常に動かし続けるのが基本とされます。

二重化と呼ばれる考え方です。特に重要な部分では、三重化まで行う例もあると言われます。

装置だけではありません。

建物ごと、もう一つ持ちます。

地理的に離れた場所に第2のセンターを用意し、片方が使えなくなっても続けられるようにする。
通信の回線も一本にはしません。

これは、非常階段や非常電源と同じです。

使わないことに意味がある設備で、使わなかった日にも維持費はかかります。

同じものを二組、三組とそろえれば、確かめる作業もその数だけ増えます。

人も月数も増える。

ここは「人数 × 月」で数えるのが正しい仕事です。

人月が高いのではありません。止まらないことを買っているのです。

線を引く場所は「止まったら、誰が困るか」

そう考えると、線を引く場所が見えてきます。
機能の多さでも、金額の大きさでもありません。

止まったときに困る範囲です。

止まったときに困る範囲例買い方
社会が止まる決済・送金のような基幹の仕組み人月で正しい。何重化ごと買う
会社が止まる受発注・請求・給与外に頼む。ただし止め方と引き継ぎ方を契約に書く
自分と数人が困るだけ集計、転記、確認表、下書き自分で作ってよい。作り直してもよい

多くの現場で起きていたのは、一番下の段まで、上と同じ値段のつけ方で買っていたということだと思います。

数人しか使わない確認表を、人数と月数で見積もってもらっていた。他に方法がなかったからです。

業務アプリの内製化がずっと言われながら進まなかった理由も、突きつめれば作れる人が社内にいなかった、その一点だったと思います。そこが、いま変わりつつあります。

危惧は本物です。だから「禁止」ではなく「範囲」を決める

冒頭に戻ります。管理とセキュリティの心配は、正しい心配です。

ただ、作らせない、という選択肢はもう選べません。

禁止したところで、手元のパソコンやスマホの中で完結してしまいます。
会社が把握できない場所で作られるほうが、管理としてはよほど危ない。

決めるのは3つだけでいいと思っています。増やすと守られません。

  1. 入れないデータを決める。「入れてよいもの」を並べる形にすると、必ず抜けます
  2. 置き場所を1か所にする。個人の端末に散らさない
  3. 作った人がいなくなった日をどうするかを、作る前に決める。

なお、終わったあと誰が直せるのかという話は、別の記事に書きました。

→ https://www.SoloBizJourney.com/2026/08/21/who-can-fix-it-blog-cover/

管理コストは、作らせないことでは下がりません。

置き場所を決めることで下がります。

変わるのは、どこまでをそれで買うか

人月商売はなくなりませんし、なくす必要もないと考えています。
止まってはいけないものは、これからも人数と月数をかけて作られます。

変わるのは、どこまでをそれで買うかです。

あなたの会社の見積書は、止まったら社会が止まる仕事と、自分と数人が困るだけの仕事を、同じ単価で並べていませんか。

自分たちで作れる範囲を決めるところから始めたい、という場合は、研修の入口をこちらに置いています。

→ https://solobizjourney.com/dx-kenshu/

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