
分析を頼んだら、設定を直せと返ってきました
介護福祉分野の研修を、石川県内だけでなく富山・福井にも広げるべきかどうか。
いま検討しているところです。
判断材料がほしくて、手元のデータをClaude(Anthropic社の生成AI)に渡して分析を頼みました。
返ってきた最初の一言が、これでした。
「その判断をする前に、UTMパラメータを設定して、流入元を厳密に取れるようにしましょう」
分析を頼んだのに、まず計測の設定を直せと言われたわけです。
正直、少しむっとしました。そのあとで、言われている意味が分かりました。
UTMパラメータとは何か
UTMパラメータとは、ホームページのURLの末尾に付ける、「この人はどこから来たか」を伝えるための短い文字列です。
UTMはUrchin Tracking Moduleの略で、Googleアナリティクスの前身にあたるツールの名前が、そのまま残っているだけの言葉です。意味は気にしなくてかまいません。
たとえば、こんな形になります。
「?」から後ろが、付け足した部分です。
ページの中身は何も変わりません。
開いた人には、いつもと同じページが表示されます。
変わるのは、Googleアナリティクス側の見え方だけです。
種類は5つあり、そのうち3つが実質的な必須です。
| 種類 | 何を書くか | 例 |
|---|---|---|
| utm_source(必須) | どこから来たか。媒体そのものの名前 | note、facebook、mailmag |
| utm_medium(必須) | 何を経由して来たか。手段の種類 | email、social、cpc、referral |
| utm_campaign(必須) | どの企画から来たか | kaigo202609 |
| utm_term(任意) | 検索連動広告のキーワード | — |
| utm_content(任意) | 同じ企画の中でどのリンクか | button_top、text_bottom |
宅配便の送り状で考えると分かりやすい
横文字が5つ並んだ時点で読む気が失せる、という方のために、たとえ話をひとつ。
宅配便の送り状には、「お届け先」の欄と「ご依頼主」の欄があります。
荷物が届いたことは、受け取った側にも分かります。中身も見れば分かります。
ですが、ご依頼主の欄が空欄だったら、誰が送ってきたのかは永遠に分かりません。
UTMパラメータは、この「ご依頼主」の欄です。
しかも、書くのは送る側、つまり自分です。
自分でリンクを配るときに、自分で名札を貼る。それだけの作業です。
作り方は、手打ちしなくていい
「Campaign URL Builder」というGoogle公式のページがあり、項目を埋めればURLを作ってくれます。
手で打つと、打ち間違いが一文字あるだけで別の流入元として数えられてしまうので、手打ちはしないほうが安全です。
ただし、道具を開く前に決めておくことがあります。命名規則です。
noteからの流入を、あるときはnote、あるときはNote、あるときはnote_blogと書いてしまうと、Googleアナリティクスの中では全部が別ものとして並びます。
後から名前を変えても、過去のデータは変わりません。
一度貼った名札は貼り直せない、と思っておいたほうがいいです。
つまずきやすいのは、この2つ
- 日本語は使わない。 「介護研修」のような日本語を入れると、URL上では文字化けした記号の羅列になります。半角の英数字とハイフン、アンダースコアだけにします。
- utm_mediumは、勝手な言葉を入れない。 ここは小文字で、Googleアナリティクス側があらかじめ用意している分類(emailやsocialなど)に合わせます。たとえば紙のチラシのQRコードだからといってqrやprintと書くと、既定の分類に無いため「その他」の山に落ちます。名札は貼ったのに、読んでもらえない状態です。
なぜGoogle Analyticsだけでは流入元が分からないのか
ここからが本題です。
Googleアナリティクス(現在はGA4という版が使われています。ホームページに何人来たかを見る、あの無料の道具です)は、放っておいても流入元をある程度は判別してくれます。
検索から来た人、他のサイトのリンクから来た人、SNSのタイムラインから来た人。
このあたりは自動で振り分けられます。
問題は、自動で振り分けられないものが、けっこうな量あることです。
- メールの本文に貼ったリンクから来た人
- 紙の資料に刷ったQRコードを読んで来た人
- LINEやスマホアプリの中のリンクから来た人
これらは、既定のままだと参照元の情報が付いてきません。
結果として、「直接アドレスを入力して来た人」の塊に混ざります。
実際にはこちらが配ったリンクから来ているのに、データ上は「どこからともなく現れた人」になるわけです。
自分の場合で言えば、思い当たるものがすぐ3つ出てきました。
セミナーで配る資料に刷ったQRコード。参加者へ送る案内メール。SNSのプロフィール欄に置いたリンク。
ご依頼主の欄が空欄の荷物が、毎日届いていたということです。
荷物が届いていること自体は、画面に出ていました。
数も見ていました。ただ、誰が送ったのかを、私は一度も確かめていませんでした。
計測は、動き出す前にしか仕込めません
「データが溜まってから分析すればいい」とよく言われます。
この順番は、計測に関しては成り立ちません。
溜まっていないデータは、後からどうやっても取り返せないからです。
自分の失敗を書きます。
研修依頼のページを、Reactという仕組みで作っていたものから、静的なHTMLに作り直したことがあります。見た目も内容も、問題なく移し替えたつもりでした。
ところがその作業のときに、GA4のタグ(アクセスを数えるための短いコード)が抜け落ちていました。
ページは動いていました。表示も崩れていませんでした。問い合わせも来ていました。
ただ、数えていなかっただけです。
気づいて直したときには、その期間のアクセスデータは、どこにも存在しないままでした。
復旧のしようがありません。
だから今回も、県外に広げるかどうかを決める「前」が、仕込むタイミングでした。
判断したくなってから設定を始めても、その判断に使えるデータは1件も無い。
生成AIが先に設定の話をしてきたのは、そういうことだったのだと思います。
AIが突いたのは、知識の穴ではなく認知の穴でした
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。
生成AIに聞くことの大半は、「知らないから聞く」です。
用語の意味、手順、書き方。知識の穴を埋める使い方で、これはこれで有効です。
今回のは、それとは違いました。
UTMパラメータという言葉自体は、知っていました。
Googleアナリティクスの画面も、たびたび開いていました。
「直接流入」という欄が並んでいるのも、当然見ていました。
知らなかったのではなく、見ていたのに素通りしていた。
穴が空いていたのは知識ではなく、認知のほうです。
そして思ったのは、これは人に相談しても、たぶん出てこない類の指摘だということです。
「最近アクセスが伸びなくて」と誰かに相談したところで、相手は私のアナリティクスの画面を見ていません。
一般論としてのアドバイスは返ってきますが、「あなたのその画面の、その欄がおかしい」とは言えない。
何を見落としているかを指摘するには、こちらの手元と同じものを見ている必要があります。
生成AIをエージェント(人の代わりに手順を進めてくれる仕組み)として組むことの値打ちは、たぶん「作業が速くなる」ではありません。
自分が慣れきって疑わなくなった手順に、横から口を出してくる相手が常駐することのほうです。
速さは、あとから付いてきます。
AIに分析させたいなら、先に人間がデータに名前をつける
海外のマーケティング分野の解説を読んでいると、流入元の貢献度をAIに分析させる(アトリビューション分析、つまりどの流入元がどれだけ成果に効いたかを測る話です)ときの前提条件として、「UTMパラメータのカバー率8割以上」といった具体的な水準が挙げられていました。
AIはデータだけでなく文脈に飢えていて、流入元が整理されていないと手を縛られた状態になる、という書かれ方をしています。
読みながら、既視感がありました。
研修の現場で「うちの社内のデータをAIに読ませたいんですが」と相談されたときに、私がいつも返している話と、構造がまったく同じです。
読ませる前に、様式を揃えて名前を付ける工程がいります。
介護施設なら、申し送りの書き方が人によってばらばらのまま。
製造業なら、作業日報の項目名が現場ごとに違うまま。
この状態でAIに読ませても、返ってくるのは当たり障りのない一般論です。
AIの性能の問題ではなく、渡した側の問題です。
AI導入でつまずくのは、たいていAIの手前です。
そして手前の工程は地味で、誰も褒めてくれません。
名前を揃える、様式を決める、貼る位置を決める。
この作業に「AI活用」という名前は付きませんが、ここを飛ばした先には何もありません。
私のブログの流入元も、これから名札を貼るところです。
1か月後に「富山・福井に広げるべきか」を数字で判断できるかどうかは、今日の設定にかかっています。
今日から数え始めるものは、今日から数えられます。今日数えなかったものは、1か月後には存在しません。
数字を見る前に、まず名前をつける。
この順番は、社内のデータをAIに読ませるときもまったく同じです。

