パブリックコメントとは何か。行政はもっと意見を求めているのに、なぜ集まらないのか

意見を「言いに行く」制度ではなく、行政の側が意見を「探しに来ている」制度でした。

調べてみるまで、私はパブリックコメントという制度をきちんと知りませんでした。

行政が計画や制度を決める前に、案を公開して広く意見を募る手続きが、法律に基づいてずっと前から用意されている。

生成AIとDXを仕事にして、研修の現場で自治体のデジタル化の話までしている自分が、その存在を素通りしていたわけです。

だから最初に置く証拠は、誰かの不勉強ではなく、自分の空白です。

知らない人がいるのではなく、知る機会が回ってきていない。

この記事は「意見を出そう」という呼びかけではありません。
使える窓口が、すでに開いているという話です。

パブリックコメントとは何か

パブリックコメント(意見公募手続)は、国や自治体が計画・条例・基準などを決める前に、決定前の案を公開し、広く意見を募る手続きです。

国については行政手続法に定めがあり、命令等を定めようとするときは案と関連資料を公示し、意見の提出先と提出期間(原則30日以上)を示すことが求められています。自治体も、条例や要綱で同じ仕組みを持っているところが多い。

出せるのは、原則として誰でもです。会社の名前でも、個人でも構いません。

受付は所定の様式に沿って、電子申請フォーム、電子メール、郵送、窓口への持参のいずれかというのが一般的です。募集中の案件は、たいてい自治体の公式サイトの「意見募集」「パブリックコメント」の一覧に集められています。

そして、いちばん誤解されやすいのがここです。

これは多数決ではありません。

賛成が何票、反対が何票で結論が動く仕組みではなく、寄せられた意見を検討し、必要があれば案に反映する前提で設けられた手続きです。

数を集めた側が勝つ場ではない。だからこそ、根拠のある一本が効く余地が残っている。

選挙と同じ列に並ぶ、もう一つの窓口

民意を届けるという意味では、投票と同じ列に並ぶ手段のはずです。

ただ、性質は逆を向いています。

選挙は「誰に任せるか」を選ぶ場で、パブリックコメントは「中身そのもの」に触れる場。
任せた先が何を決めるか、その一歩前に手が届く。

しかも母数の重みが違います。

選挙の一票は膨大な数のなかに埋もれますが、意見公募は案件によって提出が非常に少ないとよく指摘されます。

自分の業種の許可基準や手数料、申請様式の案が募集にかかっていることもある。

中小企業の経営者にとっては、業界団体を通すしか道がないと思い込んでいた話が、実は自社の名前で直接置ける場所として用意されていた、という構図です。

なぜ意見が集まらないのか

ここで視点を、市民の側から行政の側にひっくり返してみます。

わざわざ決定前の案を公開し、期間を区切り、様式をつくり、受付の窓口まで用意している。

これは「意見が来てほしい」という前提でしか作られない設計です。

来なくていいなら、公開しなければいい。
手続きの存在そのものが、行政の側が意見を探しに来ている証拠に見えます。

なのに集まらない。制度が悪いのではなく、存在が伝わっていないだけではないか。

そして、よく指摘される構造として、こういう詰まり方があります。

意見が来ない。だから、周知に手間とお金をかける理由が生まれない。
だから窓口は細いまま。だからますます来ない。

誰も怠けていないのに、輪が閉じている。

責める相手をつくる話ではありません。

行政の担当者は、案の作成と、寄せられた意見の整理と、その後の説明までを抱えています。

伝える手段が足りていないだけです。

だからここで言いたいのは一点だけで、周知の順番が後ろに回っている、ということです。

英国は「受け取る側」を先に広げた

順番の話でいうと、英国政府はこの「受け取る側」を先に手当てしました。

英国では政府が年間およそ500件の意見公募を行っており、その回答を人手で分析する作業に年間75,000日、人件費で約2,000万ポンドがかかっていたと公表されています。

外部の分析会社への委託も少なくありませんでした。

そこで政府内製のAIツール「Consult」が、寄せられた意見から論点を自動で抽出し、担当者がダッシュボードから市民の声そのものをたどれるようにした。

独立水委員会の意見公募では、5万件を超える回答の分析を約2時間、費用240ポンドで行い、専門家による検証に22時間を要したと発表されています。

精度についても、人手で分析した2つのグループのいずれかと約83パーセント一致した一方、人間の2グループ同士が一致したのは55パーセントだったとされています。

人間の判断もそこまで揃わない、という前提込みの数字です。

実際の案件への初適用はスコットランド政府で、非外科的な美容医療の規制についての2,000件超の意見を分析し、専門家のレビューとほぼ同じ結果が得られたと報告されています。

ここで一言だけ付け足すと、日本はまだ「意見が集まりすぎて困る」という段階に達していません。
分析を自動化する話より前に、窓口が知られることがある。順番としては、そちらが先です。

せっかくの仕組みなんだから、と思う

だから「出しましょう」とは書きません。

こういう窓口があると知っておくだけで、見える景色が変わります。

市の広報に載る計画の名前が、決定の報告ではなく、まだ触れる余地のある案として読めるようになる。
それだけで十分な変化だと思います。

そのうえで、私が石川県で作りたい土壌はこちらです。

市民や事業者が、生成AIを道具として自分の考えを整理し、根拠のある一本の文章として形にできるようになる。

そうなれば、この県は「行政が旗を振る前に、市民が先に動いている地域」になり得ます。

人手が足りないのはどこも同じで、行政も企業も同じ条件に立っています。
だとすれば、先に動ける側から動いたほうが早い。

あなたの住む自治体は、いま何について意見を募集しているでしょうか。

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