
AIが置き換えるのは、あなたの会社のソフトではありません。ソフトとソフトの間を走り回っている人のほうです。
民泊にAIを組み込むサービスを見つけました
先日、民泊の運営にAIエージェント(人の代わりに、複数の作業を続けて行うAI)を組み込むサービスを見つけました。
予約が入ってから清掃の手配が終わるまでを、人を挟まずに流していく仕組みです。
これはいい着眼点だな、と思いました。
私自身が昔、その人を挟む側の人間だったからです。
私は昔、その「間」にいた人でした
以前、ゲストハウスを一人で運営していた時期があります。
宿の予約は、一つの窓口から入ってくるわけではありません。
予約サイトが何社もあって、そのどれからも入る。
空室を一つずつ手で直していたら間に合わないので、予約サイトをまとめて管理するソフトを入れます。
それとは別に会計のソフトがあり、清掃を頼む人への連絡はメッセージアプリ、当日の段取りはExcelでした。
一つひとつは、どれも優秀な道具でした。
困っていたのは、道具の性能ではありません。
そのどれもが優秀なのに、道具と道具の間をつないでいたのが、私の手だったことです。
工場のラインに、コンベアがなかった
工場を想像してみてください。
切る機械も、削る機械も、塗る機械も、全部一級品です。
ところが、機械と機械の間にベルトコンベアがない。
だから人が台車を押して、部品を隣の機械まで運んでいる。
機械ではなく、機械と機械の間で人が走っている状態です。
私が宿でやっていたのは、これです。
予約サイトから予約を拾い、管理ソフトに入れ、清掃の人に連絡し、帳簿に書く。
台車を押していたんです。
AIエージェントというのは、この台車を押す人の代わりに通す、コンベアのことです。
機械を入れ替える話ではありません。いま使っているソフトは、そのまま残ります。
AIエージェントは、いま使っているソフトを置き換えるのですか
置き換えません。
ただ、そう読まれやすい言葉が出回っているので、ここをほどいておきます。
「SaaSの死」という言い方です。
SaaSとは、月額で借りて使うクラウドのソフトのこと。
宿の管理ソフトも会計ソフトも勤怠のソフトも、だいたいこれです。
だから「SaaSが死ぬ」と聞くと、いま入れているソフトが全部いらなくなる、と読めてしまう。
ところが、海外でこの「つなぐ層」を売っている会社自身が、すでにあるソフトを置き換える必要はない、必要なのはそれらをようやく会話させる層のほうだ、という趣旨のことを言っています。
売っている本人が「置き換えではない」と言っている。
では何が死ぬのか。私はこの二つだと見ています。
- 人が画面をひとつずつ開いて操作している時間
- 「使う人の人数」で料金が決まる仕組み
たとえるなら、劇場が潰れる話ではありません。
座席の数で料金をいただくやり方が、だんだん合わなくなるという話です。
舞台はそのまま。ただ、客席に人が座らなくなる。
だから経営者として身構えるべきは「うちのソフトが消えるらしい」ではなく、「うちは、その間を人件費で埋めていないか」のほうです。
なぜ業種によって、AI活用の進み方が違うのですか
理屈だけで言えば、コンベアを通す価値が大きいのは、民泊より介護の現場のはずなんです。
記録のソフトがあり、請求があり、シフトがあり、勤怠があり、ご家族への連絡があり、送迎の調整がある。
しかも、その間に紙とExcelが挟まる。台車の数は、宿の比ではありません。
なのに、先に始まったのは民泊でした。
理由は一つだと思っています。
民泊で使われているソフトは、最初から機械同士が直接やりとりする前提で作られていたからです。
人が見て操作する画面が表玄関だとすると、それとは別に、機械が出入りするための通用口が最初から開いている。
この通用口をAPIと呼びます。
要は「人が入る扉とは別に、荷物が出入りする裏の扉があるかどうか」です。
通用口が開いていれば、コンベアは上から通すだけで済みます。
建物を建て直す必要はない。
だから民泊が先でした。業界の意識が高かったからではなく、扉がもともと開いていたからです。
一方で、業種によっては、その通用口が開いていないソフトがあります。
ここで作った会社を悪者にするのは違うと思います。
自社の画面の中で完結してもらうほうが、サポートの品質を保ちやすいという面もある。
開けないことにも、それなりの理由があります。
つまり、これは善悪の話ではなく、順番の話なんです。
「AIで全部つながる時代」は、全業種に同時には来ません。
通用口が開いている業界から、順番に来ます。
ただ、これは待つ理由にはなりません。ここを間違えると、あと3年損をします。
順番が回ってきたときに動けるのは、それまでに小さくつないでみた会社だけだからです。
扉が開いた日に「で、うちは何と何をつなぐんでしたっけ」から始める会社と、すでに「この転記が一番きつい」と分かっている会社では、初速がまるで違う。
石川県の中小企業のように、専任の担当を置けない会社ほど、この初速の差がそのまま結果の差になります。
私も、半分だけコンベアを通してみました
偉そうに書いていますが、私自身、全部を自動にできているわけではありません。
セミナーを一本開くと、告知ページに載せる文章、参加者への案内メール、告知画像の指示、終了後の報告書と、決まった作業が並びます。
これまでは全部、私が台車を押していました。
同じ内容を、置き場所を変えて何度も書いていたわけです。
いまは、その手順をAIに覚えさせて、下書きまでは自動で出てくるようにしました。
ただし、確認と送信は自分の手でやっています。
全自動ではありませんし、そこまでやる気もありません。
送信の判断だけは手元に置いておきたいからです。半
分だけコンベアを通した、というのが正直なところですが、それでも押していた台車の数は目に見えて減りました。
あなたの職場で、いま台車を押しているのは誰ですか
新しいソフトを探す前に、一度これを見てみてください。
あなたの職場で、いま台車を押しているのは、誰の、どの作業でしょうか。
あの画面から、この画面へ。紙から、Excelへ。
誰かが毎日、同じ内容を運び直しているはずです。
それが見つかれば、AIに何を頼めばいいかは、もう半分決まっています。
▶ 自社のどの作業から手をつけるか、現場で一緒に洗い出すところからやっています

