生成AIに図面を入れていいですか|「入れてはいけない情報」リストを配っても現場が動かない理由

「入れるな」と書いた紙は守られません。守られるのは、「代わりにこれを使え」と書いてある紙です。

※本記事は2026年8月時点の各サービスの公式説明にもとづいています。
仕様は変わりますので、導入前に必ず各社の公式情報をご確認ください。

「これ、図面を読ませてもいいんですか」

製造業の会社で研修をしていたときのことです。

ひととおり使い方を触ってもらったあと、参加者の方から手が挙がりました。

「新しい製品のアイデアを壁打ちしたいんですが、いいんですか」
「うちの図面を読ませたら、もっと使えると思うんですけど」

いい質問だと思いました。

というより、当然出てくる質問です。
生成AIが業務にいちばん効くのは、社外の一般論を聞くときではなく、自社の中身を扱うときだからです。

そして、これを聞いてくれた時点で、その会社は一歩先にいます

多くの現場は、そのどちらでもありません。

聞かずに使っているか、聞かずに諦めているか。

この二つです。前者は誰も気づかないまま進み、後者は「うちには関係ない」で止まります。

手を挙げて聞いてくれる会社は、その間に立っている。
だから私は、この質問を責めたことが一度もありません。

顧客名簿より、図面のほうが難しい

「入れてはいけない情報」と言われて最初に思い浮かぶのは、たいてい個人情報です。

顧客名簿、従業員の履歴。これは分かりやすい。
「慎重に扱いましょう」で、だいたい話が通じます。

ところが図面とアイデアは、少し事情が違います。
私が気になっているのは、次の三つです。

一つめ。その図面は、自社のものとは限りません。

石川県の製造業は、取引先から図面を預かって仕事をしている会社が本当に多い。

その図面は、自社の判断だけで扱っていいものではありません。
守秘義務の話、つまり契約の問題になります。自社の情報かどうかで、線の引き方が変わります。

二つめ。まだ出願していないアイデアかもしれません。

特許は、出願する前に公然と知られてしまった発明は新規性を失う、という考え方があると理解しています。

公開から一年以内であれば例外の適用を受けられる規定(特許法第30条)もありますが、出願時の書面提出など手続きが必要とされています。

いずれにせよ、開発中のアイデアを外に出す行為には、こういう論点があるということです。
詳しくは弁理士など専門家にご確認ください。

三つめ。「秘密として管理していた」と言えるかどうか。

不正競争防止法で守られる営業秘密には、秘密管理性・有用性・非公知性という三つの要件があるとされています(経済産業省「営業秘密管理指針」/令和7年3月改訂)。

細かい話には踏み込みませんが、社内でどう管理していたかが問われる、という点だけは押さえておく価値があります。

つまり、ルールを作ること自体が、守りの一部になっている。
ここが個人情報の話と決定的に違うところです。

「学習に使われません」は、3分の1しか見ていない

ここからが本題です。

「うちは学習オフにしているから大丈夫」。
よく聞く言葉ですが、確認すべきことは三つあって、しかもそれぞれ独立しています。

問い
学習モデルの改善に使われるか
保存履歴やメモリーとして残るか
共有誰に見えるか

分かりやすいのが一つめと二つめの関係です。

ChatGPTの公式FAQには、学習をオフにしても会話は履歴に残ると明記されています(設定>データコントロール>「すべての人のためにモデルを改善する」をオフ)。

学習をオフにするのは、あくまで一列目の対策です。

そして実務でいちばん効いてくるのが、二列目の「保存」のほうです。

ChatGPTのメモリー機能は、チャットやファイルから役に立ちそうな文脈を自動的に覚えると説明されています。

しかも公式には、メモリーの要約画面がすべてを表示するわけではない、とも書かれています。

何が起きるか。A社の相談内容が残ったまま、後日B社の相談に自然に反映される。

製造業では、競合する二社の両方から仕事を受けているのは珍しくありません。

しかもこれ、本人に自覚がないまま起きます。
悪意も操作ミスもなく、道具が親切に振る舞った結果として起きる。

三つめの「共有」も同じです。

プロジェクトやチャットを共有する機能は便利ですが、共有した瞬間に、中のファイルも指示も相手から見えます。

三つの軸は、どれか一つを対策しても、残り二つは開いたままです。

禁止ではなく、置き場所を変える

ここまで読んで「そんなの気にしていたら使えない」と思われたなら、まったく正しい反応です。

そして「使うな」と言われた現場が取る行動は、二つしかありません。

隠れて使うか、使わなくなるか。

どちらも会社にとって最悪です。
前者は見えないところで穴が開き、後者は競合に置いていかれる。

だから私は、禁止ではなく置き場所を変えるという言い方をしています。
入れたい情報を諦めるのではなく、入れても大丈夫な道具と設定に移す。

資料を読ませたいとき → 読み込ませた資料の中だけで答える道具に寄せる。

Gemini Notebook(2026年7月にNotebookLMから名称変更されました)は、回答が登録したソースの中だけに基づくと説明されており、フィードバックを送らない限り学習には使われないと明記されています。

案件ごとに情報を混ぜたくないとき → プロジェクト単位で記憶を分ける。

ChatGPTのプロジェクトには、公式説明によると作成時に「そのプロジェクト内だけ」を選べる設定があります。

ただし、この設定は新規作成時にしか選べず、既存のプロジェクトは後から変更できないとされています。案件を分けたいなら、作り直したほうが早いということです。

一度きりの相談 → 履歴に残らないチャットを使う。

ChatGPTの一時チャットは、履歴に残らず、メモリーを参照も作成もせず、学習にも使われないと説明されています(安全確認のため最大30日は保持されるとのことです)。Geminiにも同様の機能があります。

私自身、セミナーでは先に汎用のGeminiで慣れてもらい、自社の資料を扱う段階でGemini Notebookに移るという順序にしています。

危ないから触らせないのではなく、危ない作業が始まる前に道具を持ち替えてもらう。順番の設計です。

A4一枚の雛形(そのまま貼り出せます)

分厚い規程はいりません。この5行で足ります。

生成AI利用ルール(2026年●月版)

  1. 使ってよいツール:会社が契約したもののみ。個人アカウントでの業務利用は不可
  2. 最初に確認する設定:学習利用のオン/オフ、履歴・メモリーのオン/オフ、共有範囲
  3. そのまま入れない情報:取引先から預かった資料/出願前のアイデア・図面/個人情報/取引条件・見積
  4. 3に該当する作業をしたいとき:資料を読み込ませる専用ツールを使う/案件ごとに記憶を分ける/履歴に残らないチャットを使う
  5. 迷ったときの相談先:(担当者名)

改定日:(  年  月  日)

この雛形の肝は、4番があることです。

3番だけの紙は、世の中にいくらでもあります。そして守られません。

禁止と代替が同じ一枚に載っているから、現場は「じゃあどうすればいいのか」で立ち止まらずに済む。
逃げ道を用意した紙のほうが、結果として守られます。

5行の紙と、改定日

第1回では入口の鍵を二重にする話を(第1回はこちら)、第2回では渡した鍵を返してもらう話を書きました(第2回はこちら)。今回は、その鍵の中に何を入れるかという話です。

ルールは分厚くしないほうがいい。

読まれない規程より、5行で貼り出せる紙のほうが守られます。

ただし、ここまで書いてきた設定も名称も、半年後には変わっている可能性があります。
だから改定日だけは必ず入れてください。日付のない紙は、いつか嘘になります。

石川県の中小企業は、少ない人数で、信頼関係でまわっています。

だからこそ、線を引く仕事を人の勘に預けない。
一枚の紙にしておく。それが結局、現場に自由に使わせるための土台になります。

研修では、この一枚を実際に埋めるところまでやることがあります。
ツールの使い方を覚えるより、自社で線を引けるようになるほうが先だと考えているためです。

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