
セキュリティ対策とは、鍵を増やす作業ではなく、「入れなくなったときに戻れる道」を先に作る作業だった。
Googleから、期限付きの通知が届いた
先日、自分のドメインで使っているGoogle Workspaceから通知が来ました。
2段階認証が必須になります、という内容です。
しかも、いつまでに、という日付が明記されていました。
正直、最初は「またこの手の通知か」と思いました。この種の案内は普段なら流します。
ただ、日付が入っていたのが引っかかって、その日のうちに自分の管理画面を開いてみたんです。
認証の設定をしに行ったつもりでした。ところが、見つかったのは認証の話ではありませんでした。
開いてみたら、穴は「認証の手前」にあった
出てきたのは、方式の話ではなく、前提の話でした。
ひとつ目。
全部の権限を持っている管理者が、自分ひとりしかいませんでした。
何かあったときに、代わりに入れる人が誰もいない状態です。
ふたつ目。
パスワードを2年9か月変えていませんでした。
日数まで表示されて、はじめて自覚しました。
みっつ目。
パスワードを忘れたときの連絡先が、未登録のままでした。
つまり、締め出されたら戻る道がない。
これ、「セキュリティ意識が低い」という話ではないと思っています。
一人で、あるいは数人で回している事業だと、誰もここを指摘してくれないだけなんです。
健康診断を受けていない人が不健康なのではなく、測っていないから分からない。
それと同じ構造に見えます。
石川県内でお会いする経営者の方も、ほとんどが同じ状況だと思います。
悪いわけではなく、見る機会がなかっただけです。
診断ツールは「問題なし」と表示していた
面白かったのが、ここです。
その状態のまま、Googleのセキュリティ診断は「推奨される対応はありませんでした」と表示していました。
管理者が一人しかいなくて、パスワードが2年9か月そのままで、復旧用の連絡先が空でも、チェックは緑だったわけです。
これはツールが不十分だという話ではありません。
診断が見ているのは「標準的な基準を満たしているか」であって、その基準は誰にでも当てはまる最大公約数です。ひとり社長で、管理者が自分しかいない、という自社固有の事情までは見ていない。
リスクは基準の中ではなく、基準の外、自分の使い方の中にあるという構造だと思いました。
緑のチェックは、及第点であって満点ではないということです。
では、そもそも誰から守っているのか
ここが、今回いちばん考えが変わったところです。守る相手を3つに分けて整理してみます。
ひとつ目は、攻撃者。
ただし現実には、誰も「あなた」を狙っていません。
人間が名指しで狙ってくるのではなく、機械が世界中のドアノブを片っ端から回して、たまたま開いたところに入る。それだけの話です。
だから会社の規模は関係ない。
「うちは小さいから狙われない」が通用しないのは、そもそも選ばれていないからです。
ふたつ目は、自分自身。
そして実際にいちばん多いのは、たぶんこれです。
スマホをなくす。機種変更する。
壊れる。この3つのどれかで、自分が自分の会社のデータに入れなくなる。
ここに攻撃者は一人も登場しません。
「セキュリティ対策」という言葉が、事故対策の意味を含んでいることに、やってみて気づきました。
みっつ目は、取引先。
ここが本丸だと思っています。自社のドメインから届いたメールを、取引先は疑いません。
長く付き合いのある地元の会社ならなおさらです。
もし乗っ取られたら、失うのは自社のデータではなく、相手からの信用のほうです。
「うちには守るような大事なデータなんてない」という声はよく聞きます。
でも、守っているのは自分の資産ではなく、相手が自分に対して持っている信用です。
そう考えると、データの量は関係なくなります。
実際に手を動かして分かった、「順番」の話
ここからが、やってみて初めて分かった部分です。
普段使っているアカウントには、最後に手を付けました。
先に予備の管理者を用意して、そちらで一通り試してから、本命に触る。この順番です。
理由は単純で、設定を変える途中で必ずログインし直しが発生するからです。
そして、つまずくのはたいていそこ。
だったら、壊れても取り返しがつくほうで先に失敗しておいたほうがいい。
そして実際に、予備のほうで一度入れなくなりました。
用意していた手段のうち、片方がその場面で使えなかったんです。
技術的な理由はここでは省きます。
大事なのは、複数の手段を用意していたおかげで、もう一方で復旧できたということです。
「認証の手段は複数持っておけ」というのは、言葉としては何度も聞いていました。
でも意味が分かったのは、片方が使えなくなって、残りの一つで戻れた瞬間でした。
ここを本命のアカウントでやっていたら、業務が止まっていたと思います。
まず、開いて見るところから
今回やってみて、認識が変わりました。
セキュリティは「守りを固める作業」ではなく、「戻れる経路を先に作る作業」でした。
鍵を増やす前に、締め出されたときにどう戻るかを決めておく。順番はそちらが先です。
生成AIの情報漏洩が心配だという相談を、研修先でもよくいただきます。
もちろん大事な論点です。ただその手前で、足元のアカウントが今どういう状態になっているか。
管理者は一人になっていないか。復旧用の連絡先は入っているか。
まず開いて、見るところから。
それだけで、見えるものがかなり変わると思います。
生成AIの導入と同じで、セキュリティも「触ってみる」以外に身につく道がありませんでした。
中小企業向けのDX研修では、こうした足元の設定も一緒に見ています。
研修が終わった2週間後に止まってしまう——その状態を減らすために、月額での伴走メニューを用意しました。
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