
公開されたデータは、誰かが開いて初めて「データ」になる。
昨日、観光DXに足りないのは新しいアプリ開発ではなく、いま無料で使えるツールを使いこなせる人を増やす研修だ、という記事を書きました。
書いた翌日に、実際にやってみました。
石川県が公開している観光アンケートのオープンデータを、無料のツールでダッシュボードにする。
かかった時間は4時間、かかった費用はゼロ円です。
これはその記録です。
「本当にできるのか?」への、私なりの答え合わせだと思ってください。
「オープンデータを活用しよう」と言われて、実際に何をするのか
行政の資料でも、商工団体のセミナーでも、「オープンデータを活用しましょう」という言葉はもう何度も聞かされていると思います。
ただ、その次に何をするのかを見せてくれる人は、あまりいません。
今回やったことは、こういう手順です。
- 石川県が公開している観光アンケートのデータをダウンロードする(登録不要・無料)
- 表計算ソフトで開いて、項目名を整える
- データポータル(旧Looker Studio)につないで、グラフと地図を並べる
以上です。契約も、開発も、外注も発生していません。
【用語注】BIツールとは
手元の表計算データを、グラフや地図に自動で変換して、1つの画面にまとめて見せてくれる道具のことです。「難しい分析ソフト」ではなく、「表を見やすい画面に変える道具」と思ってもらえれば十分です。
オープンデータをダッシュボードにするのに、費用はかかるのか
結論から言うと、かかりません。
データは石川県が公開しているものなので、登録不要・無料で誰でも取得できます。
使ったデータポータルはGoogleが提供している無料のツールで、Googleアカウントさえあれば今日から使えます。有料プランに入る必要もありません。
つまり、今回の作業でかかった費用はゼロ円。かかったのは4時間という時間だけです。
私はこれを、石川県の中小企業や自治体にとってかなり大きな事実だと思っています。
「データ活用」と聞いた瞬間に、多くの経営者・担当者の頭には見積書が浮かびます。
システム開発、分析ツールのライセンス、コンサル費用。だから最初の一歩が出ない。
でも、少なくとも「まず見えるようにする」ところまでは、お金は要らないんです。
要るのは、やり方を知っている人と、4時間の腹くくりだけです。
4時間でここまでできた
実際にできあがったのは、こんな画面です。70%の出来。

- 回答数のカウント(全体で何件のデータなのか)
- 都道府県別の塗り分け地図とランキング(どこから来ているのか)
- 年代 × 性別のクロス集計(誰が来ているのか)
- 来県の交通手段(どうやって来ているのか)
- 交通に対する満足度(来てみて、どうだったのか)
- そして、自由記述の一覧
グラフや地図はもちろん見栄えがしますが、現場に一番効くのは最後の「自由記述の一覧」でした。
ここは強調させてください。
アンケートの自由記述欄というのは、たいていPDFの報告書の巻末に、抜粋で数行載って終わります。
全部読もうと思ったら、生のファイルを開いて延々スクロールするしかない。
だから、ほとんど誰も読まないまま眠っています。
それが、画面の中で検索できて、絞り込めて、そのまま読める形で並ぶ。
「金沢」で絞れば金沢について書かれた声だけが出てくる。「バス」で絞れば交通の不満が出てくる。
数字は方向を教えてくれますが、人を動かすのは生の声のほうです。
宿泊事業者にとっても、自治体の担当者にとっても、「20代女性が◯%」より「バス停の表示が分かりにくかった」という一文のほうが、明日の行動に直結します。
その一文が、無料で、4時間で、拾えるようになる。
これが今回の一番の収穫でした。
ちょっと時間がかかったのは、グラフではなく「準備」だった
ここからが、この記事で一番書きたかったことです。
4時間のうち、グラフを作る前に大事なひと手間がありました。
データを整える準備です。
アンケートの生データを開くと、1行目——つまり項目名になる行に、設問文がそのまま入っています。
たとえばこんな具合です。
今回の旅行またはお出かけにおける、石川県内での具体的な宿泊費をお答えください(予定でも可/1人あたり)
これが1つの項目名として、横に数十個ずらっと並んでいる。
この状態のままツールに読み込ませると、グラフの軸にこの長文がそのまま表示されて、画面が文字で埋まります。
そこで最初にやったのが、シートを複製して、1行目だけを「宿泊費」のような短い名前に置き換える作業でした。
これをやらないと、後から「この項目、元は何を聞いていたんだっけ?」が分からなくなります。
講座でも、受講者にそのまま伝えました。
「この準備が、実務では超大事です」
ここが盲点なんだと思います。世の中に出回っているBIツールの解説は、たいてい「きれいに整ったサンプルデータ」から始まります。
ドラッグして、グラフができて、はい完成。
でも現実のデータは、設問文が項目名になっていたり、空白行が混ざっていたり、表記が揺れていたりする。
ツールが難しいのではなく、データを整える工程を、誰も教えていない。
昨日の記事で「支援が"作る側"に偏っている」と書きましたが(昨日の記事はこちら)、これはまさに同じ話です。
データを公開するところまでは制度が整っている。
ツールも無料で揃っている。
でも、その間にある「整える」という地味な工程だけが、誰の担当でもないまま放置されている。
派手ではありません。補助金の対象にもなりにくい。
でも、ここができるかどうかで、公開されたデータが使われるか眠るかが決まります。
BIツールは初心者でも使えるのか
正直に書きます。今回、目標にしていた完成イメージには届きませんでした。一部は途中で終わりました。
それでも、私はこれで良かったと思っています。
理由は単純で、「動くものが自分の手で立ち上がった」という経験のほうが、完成品を見せられるより次につながるからです。
きれいな完成デモを見て「すごいですね」で終わる研修を、私は何度も見てきました。それは記憶に残っても、手には残りません。
ツールの設定には、確かに癖があります。
日付の形式が思った通りに読み込まれない。
グラフの並び順が勝手に変わる。地図が県単位で塗れない。今回もそういう場面が何度もありました。
面白かったのは、そこを受講者同士で解き明かしていったことです。
年齢も経歴もばらばらの人たちが、それぞれ別の設定を試して、「こっちだとできました」と共有し合う。私が全部の答えを持っている必要はありませんでした。
これが、初心者でもBIツールを使えるようになるかという問いへの、私の答えです。
使えるようになります。ただしそれは、誰かが正解を教えてくれるからではなく、詰まったときに一緒に手を動かす人がいるからです。
答えを配る研修ではなく、詰まり方を経験する研修。私が伴走支援と呼んでいるのは、そういうものです。
宝を眠らせないために
石川県内でも、市や町がオープンデータを公開する流れはこれからも続きます。
データは、これからも増えていきます。
ただ、データが増えることと、データが使われることは、まったく別の問題です。
これは日本だけの課題ではありません。
世界銀行は、オープンデータの取り組みについて「データの入手可能性が高まっても、それが自動的に活用の増加につながるわけではない」と指摘しています。
活用は、使う側の慣習・行動・能力に左右されるからです。
同じく世界銀行の資料では、政府がデータを公開しても一般の市民は広く巻き込まれておらず、データにもとづく議論のレベルは低いままだ、という現状も報告されています。
つまり、公開する側の努力と、使う側の力を育てる努力は、別々に必要だということです。
そして後者は、世界中どこでも後回しにされている。
裏を返せば、解き方はもう分かっています。学ぶ機会をつくること。それだけです。
今回のように、費用ゼロ・登録不要・4時間あれば、少なくとも入口には立てます。
石川県には、観光にしても産業にしても、他県がうらやむデータがすでに公開されています。
それを眠らせるか、明日の判断に使うか。分かれ目は予算ではなく、開く人がいるかどうかです。
公開されたデータは、誰かが開いて初めてデータになる。
その「誰か」を、あなたの組織の中に増やしませんか。私は、そこに一緒に手を突っ込む役をやります。

