
能登には、人に来てほしい。そして、来てくれた人に、残ってほしい。
この二つは似ているようで、まるで違う願いです。「来てもらう」ための工夫は、移住フェアでも、SNSでも、たくさん語られてきました。
けれど「残ってもらう」ための設計は、まだ言葉にされきっていない気がしています。
申し遅れました。石原と申します。
金沢を拠点に、職業訓練のDX講座を担当しています。1日6時間×20日、現場の困りごとから逆算したワークショップ形式で、生成AIの使い方を教える仕事です。
その教室で毎回起きていることを眺めながら、ひとつの着想が浮かびました。
能登の地域おこし協力隊の方々に、着任後の最初の3ヶ月を、能登でのDX研修にあててもらえたら——と。
これはまだ、一講師の妄想です。でも、こうなればいいと本気で思っています。
Contents
地域おこし協力隊は、スキル不足では辞めない
最初に、いちばん大事な問いに答えておきます。「協力隊は、なぜ定着しないのか」。
私が見るかぎり、原因はスキル不足ではありません。多くの場合、つまずきは次の3つに集約されます。
- 孤立:知り合いのいない土地で、相談相手がいないまま一人で抱え込む
- ミッションのミスマッチ:自治体が期待する役割と、本人がやりたいことのズレ
- 早期離脱:上の二つが重なり、力を発揮する前に心が折れる
数字も、この見立てを裏づけます。地域おこし協力隊の隊員数は8,196人で6年連続の過去最多。
政府は2026年度までに1万人へ増やす目標を掲げています(総務省)。
一方で、任期を終えた隊員のうち活動地またはその近隣に定住したのは約7割。
裏を返せば、3割は土地を離れているということです。
人を増やす政策は前に進んでいる。だからこそ、これからは「残ってもらう設計」が効いてくる。
足りないのは、スキルじゃない。最初のつながりと、進むべき方角です。
私の教室で、毎回起きていること
なぜ私がそう考えるのか。根拠は、立派な理論ではなく、自分の現場にあります。
3ヶ月・少人数・膝を突き合わせる授業。
これを続けていると、回を重ねるごとに受講生どうしの気心が知れてきて、それぞれの背景や仕事の悩みが見えてきます。
最初はバラバラだった人たちが、いつの間にか「同じ釜の飯を食う仲間」になっていく。
そして、こんなことが起きます。10人いれば、9人分の生の事例が集まる。
Aさんの困りごとへの答えが、隣のBさんのヒントになる。
教科書の一般論ではなく、その人の現場から出てきた具体例が、教室の中をぐるぐる循環しはじめるんです。
この形が効く理由は、はっきりしています。
講義の成果物が「一般論」で終わらず、その人の現場の答えになるから。
教わって終わりではなく、自分で次を考えられるようになる。
私はこれを伴走型と呼んでいて、目指しているのは自走力です。
着想:能登で「着任後3ヶ月のDX研修」をやってみたら
ここからが本題です。
もし能登で、着任後の最初の3ヶ月をDX研修にあてられたら、どうなるか。
まず誤解のないように言うと、これは着任を遅らせる話ではありません。
着任はする。そのうえで、最初の第1四半期を「いきなり一人で現場に放り込む」のではなく、迷子にさせないために構造化する。
なぜ着任"前"ではなく着任"後"なのかというと、現地に立って、土地の手触りを感じながら学ぶことに意味があるからです。
机上で準備するのではなく、現場と地続きで学ぶ。
成果物は「各隊員の、AIでつくった最初の90日プラン」
研修のゴールは、知識のインプットではありません。
一人ひとりが、自分の活動の「最初の90日プラン」を持って現場に出ること。
それも、AIを使って素早く下書きし、仲間と講師に揉まれて練り上げた版です。
生成AIは、この「考えを形にする」スピードを一気に上げてくれます。
横のつながりと、縦のつながりを、活動を始める"前"に
もう一つの成果は、人のつながりです。研修を共にした同期コホート(横のつながり)。
そして研修期間中に出会う、現地の人たちとの顔見知り(縦のつながり)。
この二つを、本格的な活動を始める前に手にしている。
これがどれだけ心強いか、孤立で離脱する人を思えば、説明はいらないはずです。
主役はAIスキルではない
ここで強調したいことがあります。この研修の主役は、AIスキルそのものではありません。
私はいつも、AIは「一分野」ではなく「全活動の土台=OS」だと話しています。
掛け算の九九のようなもので、できると後のすべてが速くなる。
けれど九九そのものが目的ではないのと同じで、AIも目的ではない。
本当に渡したいのはつながりと作戦書で、AIはそれを速くするための道具です。
だから私は「最終学歴より最終学歴」という言葉を大切にしています。
何を学んできたかより、いま何を学べるか。
協力隊として土地に飛び込む人にこそ、この姿勢が効くと思うのです。
能登だからこそ、意味がある
最後に、なぜ"能登"なのか。
それは、能登が稀有な条件の揃った土地だからです。復興という大きな文脈があり、定着が切実なテーマとしてあり、そして聞くところでは、研修の宿泊にも使えそうな施設も整いつつある。
学びの場と、暮らしの場と、挑戦の理由が、ひとつの土地に重なっている。
こんな場所は、そう多くありません。
バラバラの新参者として一人ずつ送り出すのではなく、
つながりと作戦書を持った"同期"に変えて送り出す。その絵が、私にははっきり見えるんです。
まとめ
ここまで書いてきましたが、これはまだ、一講師の着想にすぎません。
でも、こうなればいいと本気で思っています。
能登に来てくれた人が、孤立せず、方角を見失わず、最初の90日を仲間と一緒に駆け抜けていく。
スキルより先に、つながりと作戦書を手にして。
静かに、ここに旗を立てておきます。
いつか、この夢の続きを一緒に考えてくれる人が現れることを願って。

