
石川県の中小企業にとって、生成AIはまだ「よその話」でしょうか。
国の補助金が出れば導入する。誰かが教えてくれたら始める。
そう思っている間に、現場では別の力学が動き始めています。
転職面接で、応募者がこう聞く時代が来ました。
「御社では、生成AI活用してもいいですよね?」
あくまでフェルミ推定による架空のシナリオです。
しかし、この質問は実際に飛び交い始めています。
そして、この一言が持つ破壊力を、数字で検証してみました。
Contents
第一章:とある面接室にて
面接室。パイプ椅子。ホワイトボードには「第二次面接」と書かれたまま消し忘れている。
応募者の田中(32歳・製造業の生産管理から転職活動中)は、最後の逆質問の時間を迎えていた。
面接官(総務部長・56歳)「何か質問ありますか?」
田中「……一つだけ、よろしいでしょうか」
面接官「どうぞ」
田中「御社では、生成AIを業務に活用しても大丈夫でしょうか」
面接官「……」
田中「たとえば、議事録の要約や、日報の下書き、見積もりの叩き台作成などに使いたいのですが」
面接官「ああ……、えーと、うちはまだ特にルールは決めてないんだけど……」
田中「わかりました。ルールがないということは、禁止もされていないということですね」
面接官「まあ……そうなるかな」
田中「ありがとうございます。安心しました」
面接が終わった後、総務部長は社長室のドアを叩いた。
総務部長「社長、ちょっといいですか」
社長(62歳)「どうした、さっきの面接か」
総務部長「最後に聞かれたんです。『生成AI使っていいですか』って」
社長「……はあ? なんでそんなこと聞くんや」
総務部長「僕もびっくりしました。でも考えたら、若い人にとっては当たり前みたいですよ。前の会社で使ってたらしくて」
社長「うちは別に禁止してないぞ」
総務部長「ですよね。でも、使っていいとも言ってない。ルールがない」
社長「…………」
総務部長「来週もう一人面接入ってます。また聞かれたらどう答えましょう」
社長「……ちょっと調べてくれ。何ができるのか」
第二章:なぜ彼はその一言を発したのか
話は三か月前に遡る。
田中は、こくちーず経由で案内された生成AIセミナーに参加していた。
会場は金沢市内の研修室。受講生は10名ほど。
ほとんどが転職活動中か、在職中にスキルアップを考えている30〜40代だった。
講師は、こう切り出した。
講師(石原)「皆さん、今日この2時間が終わったら、あなたたちは少なからず生成AIの使い手です」
受講生たちは半信半疑の顔をしている。
講師(石原)「楽しさと便利さを知ったら、今夜から毎日使うことになります。間違いなく」
数名が苦笑する。
講師(石原)「でもね、ここからが大事な話です」
会場が静まる。
講師(石原)「あなたたちがもし転職して、生成AI全面禁止の会社に入ったら――悲劇でしかありません」
受講生A(40代女性)「えっ、禁止のところあるんですか」
講師(石原)「あります。明確に禁止しているところも、なんとなくダメな空気のところも。あなたを守るために、必ず面接で聞いてください。『御社では生成AI活用してもいいですか』と」
受講生B(30代男性)「それ、印象悪くなりませんか?」
講師(石原)「逆です。考えてみてください。この質問なしでAIの使い手が入社する。会社は全面禁止を言い渡す。その人は辞めます。辞めた人は口コミサイトに何を書きますか?」
会場がざわつく。
講師(石原)「『あの会社、生成AI禁止ですよ』――これ、致命的ですよね。採用難の時代に」
受講生B「……確かに」
講師(石原)「逆に、質問してから入社した人は? 納得して入っている。イキイキ活動する。会社にとっても本人にとっても幸せです。だから聞くことは、あなたを守り、その会社をも守ることになる」
田中は、このセミナーの帰り道にスマホでChatGPTを開いた。その日から、毎晩使うようになった。
三か月後の面接で、彼は勇気を出してあの質問を投げた。
第三章:居酒屋の波紋
面接から二週間後。金沢片町の居酒屋。
田中は前職の同僚・山本と飲んでいた。
山本(34歳)「転職活動どう?」
田中「内定もらった。来月から」
山本「おお、おめでとう。どこ?」
田中「○○製作所。面接で生成AI使っていいか聞いたら、そこから話が盛り上がって」
山本「え、そんなこと聞くの?」
田中「セミナーで言われたんだよ。必ず聞けって。実際、聞いてよかった。入ってから禁止って言われたら最悪やろ」
山本「……俺も転職考えてんだけど、聞いたほうがいいかな」
田中「絶対聞け。聞かないほうがリスクや」
こうして、一つのセミナーから始まった「質問する文化」が、口コミで広がっていきます。
第四章:フェルミ推定で比較する
ここからは、この動きがどれほどの影響を持ちうるか、フェルミ推定で検証します。
前提条件:
- 石川県労働力人口:約110万人
- 年間転職者数:約33,000人(転職比率3.8%)
- 転職者の半数が平均10社面接:総面接数 約165,000回
- 石川県中小企業数:約37,000社
シナリオA:面接質問の波及
毎日10回、この質問が面接で飛ぶと仮定します。
- 平日250日 × 10回 = 年間2,500回
- 重複を考慮せず、2,500社に直接影響
- 全中小企業の約7%
面接官は上層部に報告します。「また聞かれました」「うちのルール、どうしましょう」。
経営者は重い腰を上げざるを得ない。ボトムアップの意識改革です。
さらに、口コミで「あの会社はAI使える」「あそこは禁止」という情報が広がります。
採用競争力に直結するため、対応せざるを得ない。
シナリオB:国政からの補助金
「デジタル化・AI導入補助金2026」や石川県独自の「いしかわDX推進補助金(上限300万円)」が出る場合。
- 利用率5%仮定:約1,850社(37,000×0.05)
- 申請・審査のハードルが高い
- 中小企業の生成AI導入率は10%未満と低調
- 能登復興枠で一部加速も、トップダウンでは裾野が広がらない
比較表
| 項目 | 面接質問 | 国補助金 |
|---|---|---|
| 影響企業数 | 2,500社 | 1,850社 |
| 推進メカニズム | 意識改革(ボトムアップ) | 資金支援(トップダウン) |
| スピード | 即時・広範 | 申請遅延・限定的 |
| 持続性 | 高い(文化変革) | 中程度(予算依存) |
| 初期費用 | ゼロ | 申請コスト+自己負担 |
第五章:為政者への問い
補助金は必要です。否定はしません。
しかし、「補助金を出せば広がる」という発想だけでは、生成AI活用は石川県に根付きません。
申請できる企業は、すでに意識の高い企業です。
届かないのは、まだ「うちには関係ない」と思っている大多数の中小企業です。
面接で「生成AI使えますか?」と聞かれる体験は、その大多数に届きます。
人を採りたい、人が辞めたら困る。経営者の最も切実な痛みに直結するからです。
為政者に提案したいのは、こうです。
「転職希望者は生成AI活用の有無を、面接で聞くことを推奨してください」
予算はゼロです。しかし、2,500社の経営者が「うちも対応しなければ」と動き出す。
補助金1,850社を超える波及効果が、質問一つで生まれます。
結論:一言が、地域を動かす
大層なDX戦略は要りません。
「御社では、生成AI活用してもいいですよね?」
この一言が、面接室で当たり前になったとき、石川県のAI活用は一気に加速します。
トップダウンの補助金ではなく、ボトムアップの空気が変わる。
面接で聞かれて困る側になるか、聞かれても答えられる会社になるか。
その準備は、今日から始められます。

