「生成AIを使う会社には貸せる。使わない会社には、もう貸せない。」—ベテラン融資担当者が見た、たった一つの分岐点

「生成AIを使っているかどうか」が、融資の判断材料になる時代が来ている。

はじめに—これは「架空の話」です。でも、笑えない話です。

これからお話しするのは、とある地方都市の信用金庫に勤める、ベテラン融資担当者・村瀬(仮名)の目線で描いた架空のストーリーです。

登場する企業も人物もすべてフィクション。
でも、私が地方の経営者や金融機関の方々と話す中で感じている「空気」は、限りなくリアルです。

笑い話だと思って読んでください。
——笑えなくなったら、それが答えです。

村瀬の机には、2つの稟議書がある

信金歴28年の村瀬は、この街の企業をほとんど知っている。
今日、机の上に並んでいるのは、2社の融資案件だ。

丸山製作所(従業員22名・金属部品加工)
3代目の丸山社長、38歳。先代から引き継いで5年。

藤井金属工業(従業員25名・金属部品加工)
2代目の藤井社長、63歳。創業者の息子で、社歴35年。

業種も規模もほぼ同じ。どちらもこの地域の「ものづくり」を支えてきた会社だ。
融資希望額も近い。設備更新のための3,000万円。

しかし村瀬は、すでに心の中で答えを出していた。

丸山社長との面談—「最近、ChatGPT使ってるんですよ」

丸山社長が信金の応接室に来たのは、先週の火曜日だった。

「村瀬さん、設備更新の件なんですが、今回は事業計画書をちょっと変えてみたんです」

差し出された計画書を開くと、村瀬は目を見張った。
売上推移の分析、競合との比較、市場予測。
地方の中小企業の事業計画書としては、見たことのない精度だった。

「……丸山さん、これ、コンサルに頼んだの?」

「いえ、生成AIですよ。ChatGPTとか、最近いろいろ出てるじゃないですか。うちの事務のパートさんにも使い方を教えて、見積もりの下書きとか、問い合わせ対応の文面とか、少しずつ任せてるんです」

村瀬は黙って聞いていた。

「正直、まだ全然使いこなせてないですよ。でも、少なくとも『やろうとしている』んです。この街、毎年人が減ってるじゃないですか。うちも来年、定年退職が2人出る。補充の採用なんて、もう無理ですよ。だったら、今いる人の生産性を上げるしかない」

丸山社長は続けた。

「親父の時代は、腕のいい職人を5人雇えば回った。でも今は、その5人が集まらない。だったら3人で回す仕組みを作るしかない。AIはそのための道具です」

村瀬は、稟議書の余白にこうメモした。

「経営者自身がAIを学習中。組織全体での生産性向上に取り組む姿勢あり。人口減少下での持続可能性◎」

藤井社長との面談——「うちは関係ないよ、そういうの」

翌日、藤井社長が来た。
村瀬とは30年近い付き合いだ。

「村瀬くん、設備の件、頼むよ。いつもの通りでいいだろ?」

事業計画書は、いつもと同じフォーマットだった。
手書きの売上表。「前年並み」と書かれた見通し。根拠となる数字はない。

「藤井さん、最近、同業さんでAIを使い始めてるところが増えてますけど、御社はどうですか?」

藤井社長は、鼻で笑った。

「AIなんて関係ないよ。うちは『ものづくり』だ。ボタン一つで作れる製品じゃないんだ。そんなもんに金を使うくらいなら、旋盤を一台買い替えた方がよっぽどいい」

「お気持ちはわかります。ただ、製造そのものじゃなくて、見積もりとか、日報とか、事務作業の効率化に使うという話なんですが……」

「いらん。パソコンだって俺は触らん。事務は事務の人間がやればいい。それより村瀬くん、この融資、いつ通るの?」

村瀬は、30年の付き合いに敬意を払いながら、稟議書にこう書いた。

「デジタル化への取り組みなし。人員構成の高齢化が進行。事業承継計画も未整備。中長期的な返済能力に懸念」

村瀬が「貸せない」と感じた本当の理由

誤解しないでほしい。
村瀬は、藤井社長の「ものづくりへの誇り」を否定しているのではない。

問題は、そこではなかった。

村瀬が見ていたのは、「この会社は、5年後も存続しているか?」 という一点だ。

人口が減る。働き手が減る。顧客も減る。
そんな地域で、「前年並み」を続けることは、実質的には「緩やかな縮小」を意味する。

丸山社長は、その現実を直視し、不器用ながらもAIという新しい武器を手に取ろうとしていた。
藤井社長は、その現実から目を背け、「今まで通り」にしがみついていた。

融資は慈善事業ではない。
「返してもらえるか」が、すべてだ。

変化に適応しようとする会社と、変化を拒む会社。
どちらに「返してもらえる確率」が高いかは、28年のキャリアが教えてくれる。

これは「架空の話」だ。でも、全国で起きている

実際に、地方銀行や信用金庫の現場では、こうした変化が静かに進んでいます。

金融庁は地域金融機関に対してAI利活用を推進する方針を打ち出し、群馬銀行や宮崎銀行など複数の地銀が融資稟議にAIを活用し始めています。

金融機関自身がAIを使い始めているということは、融資先にも同じ目線を向け始めているということです。

「この会社は、テクノロジーを活用して生産性を上げようとしているか?」
「この経営者は、変化に対応する意思があるか?」

これらは、決算書の数字には表れない。
でも、融資担当者の「目」には、はっきり映っている。

「完璧に使いこなせ」とは言っていない

ここで大事なことを一つ。

丸山社長は、AIの専門家ではありません。
「まだ全然使いこなせてない」と自分で言っていました。

それでいい。

村瀬が評価したのは、「AIを完璧に使いこなしていること」ではなく、「変化に向き合おうとしている姿勢」 です。

生成AIを触ってみた。社員にも使わせ始めた。事業計画書に活かしてみた。
その「やろうとしている」という事実が、融資担当者の目には、こう映る。

——この経営者は、5年後も戦える。

逆に、「うちには関係ない」と言い切る姿勢は、こう映る。

——この会社は、5年後が見えない。

経営者の皆さんへ——「貸す側の目線」を想像してみてください

あなたが今、融資を受けている、あるいはこれから受けようとしているなら、一つだけ想像してみてください。

融資担当者は、あなたの会社を「5年後も存続しているか」という目で見ています。

決算書の数字だけではない。
「この社長は、変化する気があるか」を見ている。

生成AIは、その「変化する気がある」ことを示す、最もわかりやすいシグナルの一つです。

使いこなせなくていい。
完璧じゃなくていい。
まずは触ってみる。社員に一つ使わせてみる。事業計画に一行入れてみる。

その一歩が、あなたの会社の「信用」を変えるかもしれない。

私は、セミナー登壇80回以上、職業訓練DX講座の講師として5期にわたり、地方の中小企業が「最初の一歩」を踏み出す現場に立ち会ってきました。

断言します。
最初から上手くできた会社なんて、一社もありません。
でも、「やろうとした」会社は、全部変わりました。

あなたの会社は、村瀬に「貸せる」と思わせる会社ですか?

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