
ツールを足すな、業務を削れ。地方の中小企業がDXで勝つたった一つの作法。
受講生のスライドが「真っ黒」になる瞬間
職業訓練のDX講座(今期で5期目)では、最終日に受講生がプレゼンを行います。
テーマは各自で決まっていて、業界分析・DX化の提案・導入計画(PoCと中長期)・期待される成果。
これをAIプレゼンツール「Gamma」でたたき台にする。
ところが、ほぼ全員、スライドは“文字だらけ”になる。
文字、画像、矢印、補足、注釈。伝えたいことが多すぎて、スライドが情報で埋め尽くされる。
プロジェクターから5メートル離れたら、もう何も読めない。
ここから始まる作業が「引き算」です。
文字を大きく、要素を減らし、削って、削って、削る。
そしてこれは、プレゼンだけの話ではない。
石川・富山の中小企業がDXで失敗する理由は、ほぼ全部ここに詰まっています。
足し算DXは、必ず現場で止まる
経営者から相談を受けるとき、最も多い質問はこれです。
「うちもAI入れた方がいいですよね?何から導入すれば?」
横文字マウントを排除して言い直すと、これは「足し算の発想」です。
今ある業務に、新しいツールを乗せる。チャットボットを足す、RPAを足す、生成AIを足す。
結果どうなるか。
- 現場は新ツールの操作を覚える負担が増える
- 既存の手作業は何ひとつ減らない
- 「使われないシステム」が一つ増える
DXで現場が止まる原因は、ツールが足りないからではなく、業務を引き算していないからです。
Airbnbの伝説的ピッチデッキは「10枚」だった
クラスでも紹介していますが、2009年にAirbnbがY Combinatorで使ったピッチデッキは、わずか10〜14枚。問題提起、市場規模、ビジネスモデル、競合、チーム。
これだけでSequoiaなどから60万ドルを引き出した。
凡百のピッチは50枚あって伝わらない。Airbnbは10枚で伝わった。
差は「情報量」ではなく「捨てた量」です。
DXも同じ構造をしています。優れたDXは、システム導入数で測られない。
「やめた業務の数」で測られるべきです。
- やめた会議
- やめた紙の申請
- やめた二重入力
- やめた“念のための承認”
ここを引き算しないままツールを足しても、現場の総工数は増えるだけ。
これが「DXしたのに忙しくなった」現象の正体です。
地方の中小企業こそ、引き算が武器になる
石川県・富山県の現場を回っていて確信しているのは、地方の中小企業は引き算と相性がいいということです。
理由は単純で、人手が少ないから。
一人が複数業務を兼ねている分、「この業務、本当に要るのか?」を意思決定できる距離が短い。
大企業のように部署間の利害調整で身動きが取れない、ということが起きにくい。
つまり、「引き算DX」は地方中小の構造的な強みです。
これを活かさず、都会の大企業の真似をして足し算DXに走るから、現場が止まる。
軍師として伴走するときに、最初にやることは決まっています。
ツール選定ではない。「この1ヶ月、現場が一番ストレスを感じている業務トップ3」を引き出すこと。それを引き算する道筋を描くこと。
ツールはその次です。
プレゼンも、DXも、人生も、引き算
スライドから文字を削ると、本当に伝えたい一言が浮かび上がる。
業務から無駄を削ると、本当にやるべき仕事が浮かび上がる。
人生から「やらなくていいこと」を削ると、本当に向き合いたい人が浮かび上がる。
DXで悩んでいる経営者の方に伝えたいのは、たった一つです。
ツールを探す前に、捨てる業務を3つ書き出してください。
そこから始めるDXは、絶対に止まりません。

