
たった半日の不在が、会社の半年を止めた。
あなたの会社の社長、研修に来ますか?
「社長、今度の生成AI研修、一緒に出ませんか?」
この一言を、社長に言えずにいる人事担当者や経理の方。
あるいは、言われたけど「俺はいいよ」とかわした経営者の方。
この記事は、あなたのために書いています。
私は石川県金沢市を拠点に、生成AIの企業研修や職業訓練DX講座の講師をしています。
セミナー登壇は70回を超え、職業訓練は5期目に入りました。
その現場で、何度も目にしてきた光景があります。
研修に社長が来ない会社は、研修後に何も変わらない。
「いい話聞けました」で終わる。ツールは導入されない。若手は黙って転職サイトを開く。
今回は、石川県内の製造業で実際に起きたことをベースに、「社長が研修に来ないと何が起きるのか」をお伝えします。
仮定の要素を含みますが、骨格は現場で見てきたリアルです。
Contents
社長が研修に来なかった理由
従業員15名の製造業。経営者は60代。
若手社員から「生成AIを活用しないと、もう採用すらできなくなりますよ」と言われ、社長は内心焦っていました。
経理担当者が小規模ワークショップが得意なコンサルタントを見つけてきて、10名規模の研修が決まりました。
でも、社長は参加しませんでした。
こんな言葉を残して。
言い訳①「わしはパソコンもろくに使えんのに、AIなんて無理や」
→ 社長に求められているのは、AIを「操作すること」ではありません。「使っていい」と判断することです。それは経営者にしかできません。
言い訳②「現場が忙しいのに、半日も空けられんわ」
→ 万年の人手不足を盾にする定番です。でも、取引先とのゴルフや業界の新年会には出ている。半日の研修は「時間がない」のではなく「優先順位が低い」だけです。
言い訳③「うちみたいな町工場にAIは関係ない。大企業の話やろ」
→ 実は逆です。大企業にはシステム部門がある。小規模事業者にはない。だからこそ、社長自身が「うちはこう使う」と旗を振る必要があるのです。
言い訳④「若い連中が参加すればええ。わしが出ても意味ない」
→ これが一番やっかいです。若手が研修で学んでも、権限を持つ社長が理解していなければ「勝手に使うな」の一言で全部止まります。
言い訳⑤「そんなもんに金かけるなら、機械の修繕に回してくれ」
→ 目に見えるものにしか投資できない。その判断基準が変わらない限り、会社も変わりません。
研修は社長抜きで行われた。そして何が起きたか。
以下は、現場で見聞きした複数の事例をもとに再構成した会話です。
【研修直後 ── 社内にて】
経理担当の田中さん(研修を見つけた張本人):
「社長、研修すごく良かったです。見積書の作成とか、問い合わせ対応の下書きとか、すぐ使えそうなこといっぱい教えてもらえて」
社長:
「ほう、そうか。まぁ、お前らが使えるようになったならええんちゃうか」
製造部の若手・佐藤くん(26歳):
「社長、日報の要約とか、不良品の傾向分析とか、ChatGPTでかなりできそうなんですけど、会社のパソコンで使っていいですか?」
社長:
「……ちょっと待て。情報漏洩とかあるやろ。勝手に使うな」
佐藤くん(心の声):
(やっぱりな……。社長が来てないから話が通じない)
【1ヶ月後 ── 居酒屋にて】
隣町の同業・山田製作所の山田社長(65歳)と偶然会います。
山田製作所も同規模の製造業。違いはひとつ。
あちらは、渋る社長を社員が説得して研修に参加させていた。
山田社長:
「おう、久しぶりやな。最近どうや?」
社長:
「いやぁ、相変わらずや。人手不足でな。ハローワーク出しても誰も来んわ」
山田社長:
「うちもそうやったんやけどな、この前の研修出てから変わったわ。求人票にな、"生成AI活用推進中"って入れたんや」
社長:
「はぁ? そんなんで人来るんか?」
山田社長:
「来たんや、これが。20代の子がな、"こういう会社探してました"って。面接でな、"御社はAI使っていいですか?"って聞かれたんやけど、"うちは社長の俺が率先して使っとる"って言えたからな」
社長:
「…………」
山田社長:
「正直、俺も最初は乗り気じゃなかったで? でもな、あの研修で"社長が来ないと現場が動けない"って言われてな。ハッとしたんや。実際、俺が"使っていい"って一言言うただけで、うちの若いもんがめちゃくちゃ動き出してな」
社長:
「……お前んとこ、そんな変わったんか」
山田社長:
「見積もりの回答スピードも倍になったわ。取引先にも褒められとる」
【3ヶ月後 ── 取引先との打ち合わせ】
取引先の購買担当:
「あ、そういえば御社、見積もりの回答もうちょっと早くなりませんか? 山田製作所さん、最近めちゃくちゃ早いんですよ。聞いたらAIで下書き作ってチェックするだけにしたって」
社長:
「……うちも検討します」
経理・田中さん(心の声):
(だから研修のとき言ったのに……。社長がGO出さないから、私たちツール一つ入れられなかったんですよ)
【半年後 ── 佐藤くんの退職届】
佐藤くん:
「社長、申し訳ないですけど、来月で辞めさせてもらいます」
社長:
「なんでや? 給料が不満か?」
佐藤くん:
「いえ……。山田製作所さんに声かけてもらって。あっちは新しいことどんどんやらせてくれるんで」
社長:
「…………」
「使っていい」の一言が出せるかどうか
この話の本質は、AIの技術的な話ではありません。
社長が研修に出なかったことで起きたのは、こういうことです。
- 現場に「使っていい」の一言が出せなかった
- 求人で"変化する会社"と打ち出せなかった
- 取引先へのスピードで差がついた
- 若手が「この会社にいても成長できない」と判断した
社長の不在は、たった半日の不在ではありません。会社の半年分の進化を止めた不在です。
職業訓練の現場で、私が必ず伝えていること
私は職業訓練DX講座でも講師をしています。
5期目になりますが、転職や就職を目指す受講生には、面接でこう聞くように必ず伝えています。
「御社では、生成AIを業務に活用しても良いですか?」
せっかく生成AIの活用スキルを身につけても、入社した会社で「使うな」と言われたら。
これほどの悲劇はありません。
つまり、求職者はもう「AIを使える会社かどうか」で就職先を選んでいるのです。
経営者の皆さん、あなたの会社は「使っていい」と言える会社ですか?
小規模だからこそ、ワークショップ型研修が効く
大企業向けの100人規模のセミナーでは、現場は変わりません。
10名程度の小規模ワークショップ。社長も、経理も、現場の若手も、同じテーブルで手を動かす。
これが一番効きます。なぜなら、
- 社長がその場で「これ、うちでも使えるな」と納得できる
- 若手が「社長も前向きなんだ」と安心できる
- 「使っていいですか?」「いいよ」が、その日のうちに起きる
小規模事業者にとって、この「同じ場で体験する」ことの価値は計り知れません。
最後に ── 社長、半日だけ時間をください
あなたが研修に出なくても、社員は学んで帰ってきます。
でも、あなたの「いいよ、使ってみろ」がなければ、その学びは机の引き出しにしまわれます。
半年後、隣の会社が変わっていて、うちの若手が辞めていく。
そのとき「あのとき出ておけば」と思っても、時間は巻き戻せません。
半日だけ、一緒に座ってみませんか。
AIを使う必要はありません。「うちはこう使おう」と決める。それが社長の仕事です。
単なるITツールの使い方研修ではなく、組織の未来を一緒に考える場を、私はつくっています。
