
カウンター越しに広がる、新しい金沢の夜。
※こうなったらいいなというお話です
プロローグ:ある日のセミナー会場で
「俺、機械音痴だから無理だと思うよ」
セミナー会場の最後列で、腕組みをしたまま、そう言ったのは片町で30年バーを営む田中さん(仮名・50代)だった。
私が金沢市内で開催した「個人事業主のための生成AI入門セミナー」。
参加者は8名。飲食店経営者が半分を占めていた。
「大丈夫ですよ。AIって、実は掛け算の九九と同じなんです」
私はいつものたとえ話を始めた。
「九九って、覚えてしまえば誰でも使えるじゃないですか。7×8=56って、なぜそうなるか分からなくても、答えが出せれば十分。AIも同じで、仕組みが分からなくても、使えれば仕事が楽になるんです」
田中さんの表情が少し和らいだ。
2週間後、片町のカウンターで
「石原さん、聞いてよ!」
セミナーから2週間後、田中さんから連絡をもらい、久しぶりに片町の店を訪れた。
カウンターに座ると、田中さんは嬉しそうにスマホを見せてくれた。
「この前教わったAIで、今月の日替わりカクテルのメニュー説明を作ってもらったんだよ。『初夏の金沢をイメージした、柚子と日本酒のカクテル』って入れたら、こんなにオシャレな文章が出てきて」
画面には、確かに詩的で美しい説明文が並んでいた。
「で、これをインスタにあげたら、いつもの3倍くらい『いいね』がついてさ。若いお客さんも増えたんだ」
田中さんの目は輝いていた。
「実は、常連のお客さんにも教えてあげたんだよ。『こんな便利なもんがあるぞ』って」
片町に広がる、夜のAI談義
それから数週間。
片町の夜の風景が、少しずつ変わり始めた。
「うちの店でもAI使い始めたんだけどさあ」
別のバーのママが話す。
「でもね、なんか文章が固いのよ。『お客様』『ご来店』とか、うちの店には合わないっていうか」
「それって、最初にどう頼むかで変わるんだよ」と田中さん。
「『フランクな感じで』とか、『友達に話すように』って付け加えるといいんだって」
カウンターの向こうでは、常連客たちも加わって議論が白熱していた。
「でもよ、AIに頼りすぎるのはどうなんだ?」
地元企業の社長が口を挟む。
「人間の温かみがなくなるんじゃないか?」
「それは違うよ」
田中さんが言う。
「AIが書いた文章をそのまま使うんじゃなくて、それをベースに自分の言葉を足すんだ。むしろ、今まで書けなかった人が書けるようになる。それって素晴らしいことじゃない?」
上司の承認が、いらない強み
ある夜、複数の店のマスターとママが、偶然同じバーに集まった。
「大企業は大変だよな」
誰かが言った。
「うちの常連の部長さんが言ってたけど、新しいツール使うのに、稟議だの承認だの、3ヶ月かかるって」
「私たち、決めるのは自分だけだもんね」
ママが笑う。
「今日やろうと思ったら、今日できる。この速さは、個人事業主の最大の武器だよ」
片町という小さなエリア。でも、ここに集う人たちは、地元の経営者、士業、メディア関係者。
バーのカウンターは、金沢の「オピニオンリーダー」が集まる社交場だ。
「そういえば、AIって本当に九九みたいだね」
田中さんがグラスを磨きながら言った。
「最初は難しそうに見えるけど、使ってみたら案外簡単。で、使えるようになったら、もう手放せない」
エピローグ:変わり始めた片町の夜
それから、片町のあちこちで、生成AI談義が聞こえるようになった。
肯定的な意見も、否定的な意見も、みんなが自分の言葉で語っている。
誰かが一方的に教えるのではなく、みんなで試して、失敗して、笑い合って、学んでいる。
その光景を見て、私は思った。
これが、本当の「地方からの変化」なんだ、と。
東京の大企業が承認を待っている間に、金沢・片町のマスターたちは、もう次のステップに進んでいる。
カウンター越しに、新しい金沢の夜が始まっている。

